変形性膝関節症の治療を、リハビリ・注射・インソールから考える
膝の痛みは、整形外科を受診する理由として非常に多い症状の一つです。
階段を上るときに痛い。
椅子から立ち上がるときにつらい。
長く歩くと膝が重くなる。
以前より膝が曲げにくくなった。
こうした症状の背景には、変形性膝関節症や半月板の傷み、筋力低下、体重増加、足のアライメントの崩れなど、さまざまな原因があります。
「膝が変形したら、いずれ手術になるのでは」と不安に思われる方も少なくありません。
しかし実際には、変形性膝関節症の治療は、すぐに手術を行うわけではありません。
まずはリハビリや生活習慣の見直し、ヒアルロン酸注射などの保存治療を行い、それでも改善が乏しい場合に、再生医療や手術を検討します。
今回は、膝の痛みに対してどのような治療の選択肢があるのかを、順番に解説します。
膝の変形は、筋力低下や体重増加から始まることも
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨や半月板が傷み、炎症や変形が進行する病気です。
年齢とともに増えますが、単に年齢だけで決まるわけではありません。
特に影響しやすいのが、
- 太ももの筋力低下
- 運動不足
- 体重増加
- 膝に負担のかかる生活動作
- O脚などの脚のアライメント
- 過去のけがや半月板損傷
などです。
例えば、50代、60代になって運動量が減り、筋力が落ちたところに体重増加が重なると、膝への負担は大きくなります。
最初は階段や立ち上がりのときだけだった痛みが、次第に歩行時にも出るようになり、進行すると安静時や夜間にも痛みを感じることがあります。
一方で、早い段階から筋力を維持し、体重や生活動作を見直すことができれば、変形の進行を抑えられる可能性があります。
膝の痛みは、「まだ我慢できるから」と放置せず、早めに対策を始めることが大切です。
まず大切なのは、膝を守る生活動作
膝の治療というと、薬や注射をイメージされる方が多いかもしれません。
しかし、日常生活のなかで膝にかかる負担を減らすことも、非常に重要な治療です。
膝は、深く曲げた状態で力を入れると大きな負担がかかります。
例えば、
- 正座
- 和式トイレ
- 深いしゃがみ込み
- 低い椅子からの立ち上がり
- 手を使わずに立ち上がる動作
- 階段の繰り返し
などです。
椅子から立つときは、肘掛けやテーブルに手をついて立ち上がるだけでも、膝への負担を減らせます。
階段では手すりを使うことも大切です。
「手を使うと筋力が落ちるのでは」と思われるかもしれませんが、痛みを我慢して膝を傷めるより、負担を分散しながら安全に動く方が重要です。
私自身も半月板を傷めており、椅子から立ち上がる際には、できるだけ手を支えにするようにしています。
患者さんにお伝えしていることを、自分でも実践してみると、膝への安心感が大きく違うことを実感します。
リハビリの基本は、太ももの筋力を保つこと
変形性膝関節症の保存治療で、特に重要なのがリハビリテーションです。
なかでも、太ももの前側にある大腿四頭筋は、膝を支えるうえで重要な筋肉です。
この筋肉が弱くなると、歩行や立ち上がりの際に膝関節へかかる負担が増えます。
ただし、単に筋力トレーニングをすればよいわけではありません。
膝が腫れている時期や痛みが強い状態で、無理にスクワットや強い負荷をかけると、かえって症状が悪化することがあります。
そのため、
- 膝の炎症や腫れの程度
- 関節の動く範囲
- 太ももや股関節の筋力
- 歩き方
- 足の形
- 体重
- 日常生活で困っている動作
を評価し、その方に合った運動を選ぶことが必要です。
膝だけでなく、股関節や足首の動き、体幹の安定性も確認しながら、身体全体を整えることが大切です。
ヒアルロン酸注射には、どのような役割があるのか
膝の保存治療では、ヒアルロン酸注射が行われることがあります。
ヒアルロン酸は、膝関節の動きを滑らかにする潤滑剤のような役割を持っています。
主に期待されるのは、
- 関節の滑りを良くする
- 軟骨表面を保護する
- 炎症や痛みを和らげる
- 膝の動きを改善する
といった働きです。
注射の頻度は症状によって異なります。
最初は一定間隔で行い、症状が落ち着いたら、2週間に1回、月に1回などへ間隔を延ばす場合もあります。
患者さんによっては、注射をやめると痛みや違和感が再び強くなることもあります。
ヒアルロン酸注射だけですべてが治るわけではありませんが、リハビリと組み合わせることで、膝の状態を安定させられる方は少なくありません。
痛み止めは、あくまで治療を支えるもの
膝の痛みに対しては、飲み薬や湿布、塗り薬などを使うこともあります。
これらは痛みを軽減し、日常生活やリハビリを行いやすくするために有用です。
一方で、痛み止めだけで膝の筋力低下やアライメントの崩れが改善するわけではありません。
薬によって痛みが軽くなった期間を利用して、
- 運動習慣をつける
- 筋力を回復させる
- 体重を調整する
- 歩き方を見直す
- 膝に負担のかかる動作を減らす
といった取り組みを行うことが重要です。
保存治療の次に考えるPRP治療
リハビリやヒアルロン酸注射を行っても、痛みや違和感が残ることがあります。
以前であれば、その次の選択肢として関節鏡手術などを検討することが多くありました。
現在は、その間の選択肢としてPRP治療が行われることがあります。
PRP治療は、患者さんご自身の血液を採取し、遠心分離によって血小板を多く含む成分を抽出して、膝に注射する治療です。
血小板に含まれる成長因子などの働きを利用し、関節内の炎症や痛みを抑え、組織の修復反応を支えることを目指します。
ただし、PRP治療によって、すり減った軟骨が確実に元どおりになるわけではありません。
効果には個人差があり、変形が高度に進んでいる場合や、O脚が強く機械的な負担が大きい場合には、十分な効果が得られにくいこともあります。
そのため、PRP治療を検討する際には、レントゲンや身体所見だけでなく、年齢、活動量、脚のアライメント、痛みの原因などを総合的に判断する必要があります。
脂肪由来の幹細胞治療について
再生医療には、PRPのほかに、脂肪組織などから得られる細胞を利用した治療もあります。
PRPが主に身体に備わっている修復反応を引き出す治療であるのに対し、細胞治療は細胞そのものを利用する点が異なります。
ただし、治療費が高額になりやすく、効果や適応についても慎重な判断が必要です。
新しい治療だから優れている、費用が高いから効果も高い、という単純なものではありません。
保存治療で改善できる可能性があるのか、手術が必要な段階なのか、再生医療を行うことでどの程度の改善が期待できるのかを整理したうえで選択することが大切です。
変形が進んだ場合の手術治療
保存治療や再生医療でも改善が乏しく、日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術を検討します。
膝の手術には、主に以下のような方法があります。
関節鏡手術
小さなカメラを膝に入れ、半月板や関節内の状態を確認しながら処置する手術です。
ただし、変形性膝関節症に対しては、関節鏡手術だけで長期的な改善が得られにくい場合もあります。
骨切り術
O脚などによって膝の内側に負担が集中している場合に、骨の角度を変えて荷重のかかる位置を調整する手術です。
比較的若く、活動性の高い方に検討されることがあります。
単顆型人工膝関節置換術
膝の内側または外側など、一部分の変形が強い場合に、その部分だけを人工関節に置き換える手術です。
人工膝関節全置換術
膝関節全体の変形が進んでいる場合に、関節の表面を人工関節へ置き換える手術です。
人工膝関節は、整形外科手術のなかでも確立された治療の一つです。
一方で、手術後に痛みや違和感が残る方もいるため、手術を受ければ必ず完全に元どおりになるとは限りません。
どの手術を選ぶかは、年齢だけでなく、変形の部位、活動量、全身状態、ご本人の希望などを踏まえて決めます。
レントゲンの変形と痛みは、必ずしも一致しない
診療をしていると、レントゲンでは強い変形があるのに、あまり痛みを感じていない方がいます。
反対に、レントゲンでは大きな異常がないのに、強い痛みを訴える方もいます。
膝の痛みは、軟骨のすり減りだけで決まるものではありません。
半月板、滑膜、骨、靱帯、筋肉、神経、歩き方、心理的な要素など、さまざまな因子が関係します。
そのため、画像だけを見て、
「変形があるから痛い」
「変形が少ないから問題ない」
と判断することはできません。
患者さんがどの動作で困っているのかを丁寧に確認し、診察や身体機能評価を組み合わせて治療方針を考えることが重要です。
O脚が強い場合には、装具も選択肢になる
O脚が進行すると、膝の内側に体重が集中しやすくなります。
この状態では、ヒアルロン酸やPRPを行っても、歩くたびに機械的な負担がかかり続けるため、効果が限定的になることがあります。
手術が難しい方や高齢の方では、膝を支える装具を使うことで、痛みを軽減できる場合があります。
装具によって膝のアライメントを補助し、負担が集中する場所を変えることで、歩きやすくなることがあります。
装具は見た目や装着感の問題もあるため、患者さんの生活や希望に合わせて選ぶ必要があります。
インソールは、膝の痛みにも関係する
インソールは、足の裏の痛みや扁平足に使うものと思われがちですが、膝の痛みにも役立つことがあります。
足のアーチが崩れると、足首や膝の向きも変化します。
特に、足が内側に倒れ込むような動きが強いと、膝のアライメントが崩れ、関節の一部に負担が集中することがあります。
インソールによって足のアーチを支えることで、
- 立ったときのバランスを整える
- 歩行時の足の倒れ込みを減らす
- 膝への負担を分散する
- 股関節や腰への負担を軽減する
といった効果が期待できます。
市販のインソールでも一定の効果が得られる場合がありますが、足の形や歩き方に合っていないものでは、かえって違和感が出ることもあります。
症状が続く方は、足の形だけでなく、歩行や靴の状態まで評価したうえで、オーダーメイドのインソールを検討することも選択肢です。
インソールは、作り方と作る人も大切
オーダーメイドのインソールにも、さまざまな作り方があります。
足を床についた状態で型を取る方法もあれば、足を浮かせ、関節を自然な位置へ整えて型を取る方法もあります。
さらに、実際に歩いている様子を確認しながら、細かな高さや傾きを調整する方法もあります。
どの方法が適しているかは、症状や足の状態によって異なります。
また、インソールを作る義肢装具士には、技術だけでなく、患者さんの悩みを聞き取る力も求められます。
どの靴で使いたいのか。
仕事中に使うのか。
スポーツで使うのか。
痛みを減らしたいのか、歩きやすくしたいのか。
目的を十分に共有できなければ、技術的に優れたインソールでも、使い続けられないことがあります。
新しいクリニックでも、技術とコミュニケーションの両方を大切にしながら、足と歩行を支える体制を整えたいと考えています。
膝の治療は、一つの方法だけで考えない
変形性膝関節症の治療には、多くの選択肢があります。
基本的な流れは、
- 生活動作の見直し
- 体重管理
- リハビリテーション
- ヒアルロン酸注射や薬物療法
- 装具やインソール
- PRPなどの再生医療
- 骨切り術や人工関節などの手術
となります。
大切なのは、最初から一つの治療に決めつけないことです。
ヒアルロン酸だけ、PRPだけ、手術だけではなく、患者さんの状態に応じて複数の治療を組み合わせる必要があります。
まだ変形が少ない段階であれば、リハビリや生活習慣の改善によって、手術を避けながら長く自分の膝で歩ける可能性があります。
一方で、変形が進み、痛みのために生活が大きく制限されている場合には、手術を先延ばしにしすぎない方がよいこともあります。
目指すのは、痛みを減らすことだけではありません
膝の治療の目的は、レントゲンをきれいにすることでも、注射を続けることでもありません。
患者さんが、
- 自分の脚で買い物へ行ける
- 仕事を続けられる
- 家族と旅行へ行ける
- 趣味やスポーツを楽しめる
- いつまでも社会とつながっていられる
ようになることが本当の目的です。
膝だけを見るのではなく、筋力、体重、足、歩行、生活環境まで含めて考える。
そして、手術になる前にできることを丁寧に行い、必要なときには適切な手術へつなぐ。
新しいクリニックでも、リハビリ、注射、装具、インソール、再生医療などを組み合わせながら、一人ひとりに合った膝の治療を提供していきたいと考えています。
※本記事は一般的な医療情報を目的としたものです。症状や治療の適応は患者さんによって異なります。膝の痛みが続く場合は、整形外科で診察を受けてください。


