この記事の要点
- 日本語タイトル:女性尿失禁は在宅多面的骨盤ヘルス介入でどこまで改善するか?
- 英語タイトル:Home-Based Self-Management Multimodal Pelvic Health Programs for Urinary Incontinence in Women: A Scoping Review.
このテーマは、リハビリテーション科や整形外科などで、日常的によく相談を受ける内容です。
ここでは、できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の診察室でお話しするような形で説明していきます。
研究の背景・目的
【背景】女性の尿失禁(自分の意思と関係なく尿がもれてしまう状態)の治療では、まず「PFMT(Pelvic Floor Muscle Training、骨盤底筋トレーニング)」が第一選択とされています。骨盤底筋とは、骨盤の底で膀胱(ぼうこう)や子宮、直腸などを支えている筋肉の集まりで、ここを鍛えることで尿もれを減らすことが期待されています。ただ、病院やクリニックに通い続けてトレーニングを受けるのが難しい方も少なくありません。そのため、自宅で行うPFMTを中心に、教育や生活習慣の見直しなどを組み合わせた「多面的骨盤ヘルスプログラム(骨盤まわりの健康をいろいろな角度から整えるプログラム)」が注目されています。一方で、こうした在宅プログラムがどのくらい効果があるのか、どんな内容を組み合わせるとよいのかについては、まだ十分に整理されておらず、実際の診療でどう取り入れるかの目安がはっきりしていない状況があります。
調査の方法(対象など)
【方法】医学論文が集められている主要なデータベースに加えて、通常の論文としては出ていない「グレー文献(学会抄録や報告書など、正式な学術誌以外に出ている資料)」も含めて、2025年5月31日までに発表されたものを広く検索しました。対象は女性の尿失禁で、自宅を中心に行うプログラムのうち、「PFMT(Pelvic Floor Muscle Training、骨盤底筋トレーニング)」を含み、さらに複数の要素(教育や生活指導など)を組み合わせた介入を行っている研究を集めました。その中から、ランダム化比較試験(RCT:治療法をくじ引きのように分けて比べる研究)と、準実験研究(完全なくじ引きではないが、介入前後を比較するなどして効果をみる研究)を抽出し、最終的に40本の研究を「スコーピングレビュー(どんな研究がどのくらいあるかを整理するタイプの総まとめ)」として整理しました。
研究の結果
【結果】40本の研究の多くでは、介入期間はおおむね4〜12週間で設定されていました。内容としては、自宅で行うPFMT(骨盤底筋トレーニング)に加えて、尿失禁に関する教育、日常生活での注意点などの生活指導、そして「膀胱トレーニング(トイレに行く間隔を少しずつ伸ばすなど、膀胱の習慣を整える訓練)」を組み合わせた構成が多くみられました。プログラムの提供方法は、紙の冊子やプリント、スマートフォンのアプリなどさまざまでしたが、多くの研究で、尿失禁の回数が減ったことや、QOL(Quality of Life、生活の質:生活のしやすさや満足度)がおおむね改善したことが報告されていました。これらの結果から、自宅で行う多面的な骨盤ヘルスプログラムは、尿失禁に対して有望な選択肢になりうることがうかがわれました。
結論:今回の研究でわかったこと
在宅で行う多面的な骨盤ヘルス介入は、女性の尿失禁の程度とQOL(生活の質)を、全体として中等度に改善する可能性が高いと考えられました。ただし、プログラムの具体的な内容や、どのくらいの頻度で行うかといった点は研究ごとにばらつきがあり、まだ統一された標準的なやり方が十分に固まっているとはいえません。現時点で臨床で取り入れる際には、PFMT(骨盤底筋トレーニング)を中心に、尿失禁に関する教育と生活指導を組み合わせ、少なくとも4〜12週間は続ける構成が、実際に選びやすい一つの方法になりうると考えられます。
実際の診察ではどう考えるか
【臨床のヒント】外来診療などで治療方針を考えるときには、PFMT(骨盤底筋トレーニング)を軸に、尿失禁についての正しい知識をお伝えする教育、日常生活での過ごし方を見直す生活指導、そして膀胱トレーニングを組み合わせた在宅プログラムを、4〜12週間ほど続ける形を一つの目安として設計するとよいと考えられます。そのうえで、プログラムの内容や、効果をどのような指標で評価するかをできるだけ一定に保つことを意識しつつ、患者さん一人ひとりの生活スタイルや体力、通院のしやすさなどに合わせて、「無理なく続けられるかどうか」を調整していく姿勢が大切になります。
参考文献
- Home-Based Self-Management Multimodal Pelvic Health Programs for Urinary Incontinence in Women: A Scoping Review.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41557204/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。
















