高齢大腿骨近位部骨折の脊椎麻酔で片脚弾性ストッキングは低血圧予防に有効か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:高齢大腿骨近位部骨折の脊椎麻酔で片脚弾性ストッキングは低血圧予防に有効か?
  • 英語タイトル:Leg compression for preventing hypotension after spinal anesthesia in elderly hip fracture patients.

ここで取り上げるのは、高齢の方が「大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ:太ももの付け根の骨折)」で手術を受けるときの話です。
リハビリテーションや整形外科の診療でよく出てくるテーマで、できるだけ専門用語をかみくだいてお伝えします。

目次

研究の背景・目的

高齢の方が起こす大腿骨近位部骨折は、命にかかわることや、さまざまな合併症(追加で起こる病気)が出やすいけがとされています。
この骨折の手術では、「脊椎麻酔(せきついますい:背中から細い針を入れて、腰から下の痛みを感じにくくする麻酔)」がよく使われますが、その前後の時期(周術期:しゅうじゅつき)に「低血圧(ていけつあつ:血圧が普段よりかなり低くなる状態)」が起こると、
・腎障害(じんしょうがい:腎臓の働きが悪くなること)
・心筋虚血(しんきんきょけつ:心臓の筋肉に行く血液が足りなくなる状態)
・せん妄(せんもう:急に混乱したり、時間や場所がわからなくなったりする状態)
などが増える要因になると考えられています。

出産のときの医療(産科:さんか)の分野では、「下肢圧迫(かしあっぱく:足に圧力をかけて血液がたまりにくくすること)」が、脊椎麻酔後の低血圧を防ぐのに役立つとされています。
しかし、高齢の大腿骨近位部骨折の患者さんで、同じように足を圧迫する方法が本当に効果があるかどうかは、はっきりわかっていませんでした。
この研究は、その点を確かめることを目的としています。

調査の方法(対象など)

この研究は、「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:ランダマイズド・コントロールド・トライアル)」という方法で行われました。
ランダム化比較試験とは、患者さんをくじ引きのような方法でグループに分けて、治療法を比べる研究のやり方で、治療の効果を公平に見るためによく使われます。

対象となったのは、大腿骨近位部骨折の手術を受ける高齢の患者さん60人です。
脊椎麻酔をかけたあとに、
・骨折していない側の足に「医療用弾性ストッキング(いりょうようだんせいストッキング:足を適度に締めつけて、血液がたまりにくくなるように作られた専用の靴下)」をはいてもらうグループ
・何もはかないグループ
の2つに分けました。

そして、手術の前後の時期(周術期)に、
・低血圧がどのくらい起こったか
・「昇圧薬(しょうあつやく:下がった血圧を上げるための薬)」をどのくらい使ったか
・低血圧に関連した合併症(腎障害や心筋虚血、せん妄など)がどのくらい起こったか
を比べました。

研究の結果

骨折していない側の足に弾性ストッキングをはいたグループでは、手術中と手術後の両方で低血圧を起こした人は0%でした。
一方、ストッキングをはかなかったグループでは、手術中と手術後の両方で低血圧を起こした人が20%いて、この差は統計的に意味がある(有意とされる)結果でした。

また、手術後の低血圧や、低血圧に関連した合併症についても、ストッキングをはいたグループのほうが少ない傾向がみられました。
ただし、手術中の低血圧そのものや、昇圧薬を使った回数については、2つのグループのあいだで、はっきりした差は認められませんでした。

結論:今回の研究でわかったこと

高齢の大腿骨近位部骨折の手術で脊椎麻酔を行う場合、骨折していない側の足に片脚だけ医療用弾性ストッキングをはいてもらうことで、手術の前後を通して低血圧になる危険性を下げられる可能性が高い、という結果でした。
弾性ストッキングは、体への負担(侵襲:しんしゅう)が比較的少なく、費用も高くない補助的な方法です。
そのため、すでに行われている標準的な低血圧予防策に「追加して使う選択肢のひとつ」になりうると考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

実際の診療の場では、高齢の大腿骨近位部骨折の手術で脊椎麻酔を行うとき、骨折していない側の足に片脚だけ弾性ストッキングをはいてもらう方法は、低血圧を予防するための、比較的シンプルな補助的手段として検討する価値があると考えられます。
ただし、「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう:足の深い静脈に血のかたまりができる病気)」や、「末梢動脈疾患(まっしょうどうみゃくしっかん:足先などに血液を送る動脈が細くなったり詰まったりする病気)」がないかどうかを、事前にしっかり確認することが大切です。
これらの病気があると、弾性ストッキングが合わない場合もあるため、患者さんごとの状態を見ながら、主治医が慎重に適応を判断する必要があります。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 難病指定医(協力難病指定医)

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • テニス

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次