この記事の要点
- 日本語タイトル:小児肘内側上顆転位骨折に対し、手術は保存より本当に有利か?
- 英語タイトル:Surgical fixation versus non-surgical care for children with a displaced medial epicondyle fracture of the elbow (the SCIENCE study): a multicentre, randomised controlled, superiority trial and economic evaluation.
このテーマは、子どもの肘(ひじ)のケガを診るときに、整形外科やリハビリテーション科でよく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、日常の診察でお話しするような形で説明していきます。
研究の背景・目的
「小児内側上顆転位骨折(しょうに ないそくじょうか てんい こっせつ)」とは、子どもの肘の内側にある「内側上顆(ないそくじょうか)」という骨の出っ張りの部分が、転んだりして折れて、元の位置からずれてしまうケガのことです。
このケガに対しては、「手術で骨を元の位置に戻して金属で固定する方法」と、「ギプスなどで固定して自然にくっつくのを待つ方法(保存療法)」のどちらを選ぶかについて、病院や担当医によって考え方が分かれてきました。
一般的には、「骨のかけらをきちんと戻して固定したほうが、あとで肘の動きや力が良くなるだろう」という考えから、手術が選ばれることもありますが、本当にそうかどうかを、質の高い研究でしっかり比べたデータはあまりありませんでした。
そこでこの研究では、子どもの内側上顆転位骨折に対して、手術と保存療法を比べたときに、どちらが肘の機能(動きや使いやすさ)にとって有利なのかを、科学的に確かめることを目的としました。
調査の方法(対象など)
対象となったのは、7〜15歳の子どもで、内側上顆転位骨折と診断された方です。イギリス、オーストラリア、ニュージーランドにある59の医療機関から患者さんが登録されました。
受傷から2週間以上たっている場合や、折れた骨のかけらが関節の中に入り込んでしまっている場合(関節内嵌入)、ほかの骨折を伴うような複雑な骨折などは、この研究からは除外されました。
参加した子どもたちは、「手術で骨を固定するグループ」と「手術をせず保存療法で治療するグループ」に、1対1の割合で無作為(ランダム)に振り分けられました。これは「無作為割付(むさくい わりつけ)」と呼ばれ、どちらの治療になるかをくじ引きのように決めることで、公平に比較するための方法です。
治療の結果を評価するうえで、いちばん大事な指標(主要評価項目)として使われたのが、「PROMIS(プロミス:Patient-Reported Outcomes Measurement Information System)」という評価方法のうち、「上肢機能スコア」というものです。
PROMISは「患者報告アウトカム測定情報システム」と訳され、患者さん本人が感じている症状や生活のしやすさを、質問票の形で数値化する仕組みです。この研究では、ケガから12か月後(1年後)の時点で、子ども自身が感じる腕や肘の使いやすさを、このスコアで評価しました。
研究の結果
いちばん重要な結果である、12か月後のPROMIS上肢機能スコアは、保存療法のグループで53.1点、手術のグループで54.3点でした。
両者の差は1.57点でしたが、この研究ではあらかじめ「4点以上の差があれば、臨床的に意味のある差(最小臨床的重要差)」と決めていました。そのため、1.57点という差は、この基準より小さく、「実際の生活の中で体感できるほどの差とは言えない」と判断されています。
一方で、手術を受けたグループでは、手術中や手術後の合併症(傷のトラブル、感染、神経や血管の問題などを含む可能性があるもの)や、あとから金属を抜くための追加の手術(抜釘手術)が多く必要になりました。
また、1人あたりの医療費は、手術グループのほうが保存療法グループよりも約2,435ポンド高くなっていました。ポンドはイギリスの通貨で、日本円にすると為替レートによって変わりますが、研究としては「手術のほうが明らかに医療コストが高くついた」という結論になっています。
結論:今回の研究でわかったこと
7〜15歳の子どもの内側上顆転位骨折について、この研究では、ケガから12か月後の腕や肘の機能は、手術をした場合と保存療法の場合で、ほとんど差がないという結果でした。
その一方で、手術をしたグループでは、合併症や追加手術が多く、医療費も高くなる傾向がみられました。
このことから、特別な事情がないかぎり、まずは保存療法を標準的な選択肢として考え、手術が本当に必要なケースかどうかは、慎重に絞り込んで判断するのが妥当だと結論づけられています。
実際の診察ではどう考えるか
実際の診察の場では、折れた骨のかけらがはっきりと関節の中に入り込んでしまっている場合(明らかな関節内嵌入)や、どうしても肘がぐらぐらしてしまうような、非常に不安定なケース(高度不安定例)など、手術を検討せざるをえない状況もあります。
しかし、このような特別な例をのぞけば、今回の研究からは、小児内側上顆転位骨折は保存療法でも、1年後の肘や腕の機能は手術と同じくらいになる可能性が示されています。
そのため、「骨がずれているから、すぐに手術をしなければならない」とは限らず、手術にともなう合併症のリスクや、費用の面もふくめて、ご家族とよく情報を共有しながら相談していくことが大切です。
多くの場合は、まず保存療法を基本の方針として考え、そのうえで個々の状態に応じて手術が必要かどうかを検討していく、という考え方が現実的だとされています。
参考文献
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Surgical fixation versus non-surgical care for children with a displaced medial epicondyle fracture of the elbow (the SCIENCE study): a multicentre, randomised controlled, superiority trial and economic evaluation.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41576983/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。
















