腱障害は加齢やオーバーユースでどこまで変性し治療でどこまで戻る?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:腱障害は加齢やオーバーユースでどこまで変性し治療でどこまで戻る?
  • 英語タイトル:An overview in tendon’s physiology, pathomorphology, and treatment options.

ここで取り上げる「腱障害(けんしょうがい)」は、リハビリテーションや整形外科の外来でよく問題になるテーマです。
できるだけ専門用語をかみくだいて、日常の診察室でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

腱障害(けんしょうがい)は、整形外科の外来でよくみられる「長く続く痛み(慢性痛)」の原因のひとつです。
「腱(けん)」とは、筋肉と骨をつないでいる強いヒモのような組織で、体を動かすときに力を骨に伝える役割があります。
腱障害は、スポーツ選手だけでなく、日常生活でよく体を使う中高年の方や、肥満のある方にも多くみられます。
原因としては、年齢を重ねること(加齢)、同じ動作のくり返しや使いすぎ(オーバーユース:overuse)、一部の薬剤の影響などが関わるとされています。
昔は「腱炎(けんえん)」と呼ばれ、炎症だけの問題と考えられることもありましたが、現在は、腱そのものの構造が少しずつ変化していく状態が中心と考えられています。

調査の方法(対象など)

この論文は、特定の一つの腱だけではなく、「腱全般」を対象にしたナラティブレビュー(narrative review)という種類の総説です。
ナラティブレビューとは、すでに発表されている多くの研究を著者がまとめて、全体像をわかりやすく整理した論文のことです。
ここでは、加齢、オーバーユース(使いすぎ)、肥満、一部の薬剤など、さまざまな原因で起こる腱の変性(腱の質や構造が変わってしまうこと)について、基礎研究(細胞や組織レベルの研究)と臨床研究(実際の患者さんを対象にした研究)の両方を集めています。
そのうえで、腱の生理(physiology:正常な働きや仕組み)、病理(pathomorphology:病気のときに腱の形や構造がどう変わるか)、治療オプション(treatment options:どのような治療法があるか)を整理して解説しています。

研究の結果

腱は引っ張られたとき、どのくらいまでなら元に戻れるかが研究されています。
腱がもとの長さから約4%まで伸びる範囲は「弾性域」と呼ばれ、この範囲であれば、腱は損傷を残さずに元の状態に戻るとされています。
一方で、4〜8%まで伸びると、腱の中で「微細断裂(とても小さなレベルの切れ目)」が生じるとされ、8〜10%まで伸びると、腱が大きく切れてしまう(断裂)リスクが急に高くなると報告されています。
治療法としては、「エキセントリック運動療法(eccentric exercise therapy:筋肉が伸ばされながら力を出すタイプの運動を利用したリハビリ)」が、多くのRCT(Randomized Controlled Trial:無作為化比較試験。患者さんをランダムにグループ分けして治療効果を比べる質の高い臨床研究)で有効と示されています。
また、「PRP療法(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿。自分の血液から血小板を多く含む成分を取り出して注射する治療)」や、「幹細胞療法(stem cell therapy:将来いろいろな細胞に分化できる細胞を利用する治療)」も有望と考えられていますが、現時点では、これらの治療についての科学的な根拠(エビデンス)はまだ限られているとされています。

結論:今回の研究でわかったこと

腱障害は、いくつかの段階を経て治っていく「三相の治癒過程」をたどるとされています。
一般的には、炎症が起こる時期、組織が増えて修復しようとする時期、そして組織の質が整えられていく時期(リモデリング期)といった流れです。
ただし、症状が長く続いて慢性化してしまうと、腱の構造が完全に元どおりの正常な状態に戻るのは難しいと考えられています。
治療の基本は、「荷重調整(loading modification:腱にかかる負担の量や頻度を調整すること)」と「エキセントリック運動(筋肉を伸ばしながら行う運動)」です。
PRP療法や幹細胞療法は、これらの基本的な治療に加える「補助的な選択肢」として位置づけられています。

実際の診察ではどう考えるか

腱障害は、腱の構造そのものが変化してしまう「慢性的な病気」としてとらえられており、「安静にしていれば自然に元に戻る」という考え方だけでは十分ではないとされています。
実際の診察では、腱の状態が「炎症期」「修復期」「リモデリング期」といったどの段階にあるかを意識しながら、その時期に合った負荷量(どれくらい使うか)とエクササイズの内容を調整していくことが大切とされています。
つまり、まったく動かさないのではなく、腱にとって適切な範囲で負荷をかけながら、段階的に運動やリハビリを進めていくという視点が重要になります。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 難病指定医(協力難病指定医)

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • テニス

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