退役軍人の筋骨格系疼痛に電話面接介入は本当に必要か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:退役軍人の筋骨格系疼痛に電話面接介入は本当に必要か?
  • 英語タイトル:The cost-effectiveness of motivational interviewing to activate pain support in veterans seeking compensation for musculoskeletal conditions: multisite randomised clinical trial.

ここで取り上げているのは、「筋骨格系(きんこっかくけい:骨・関節・筋肉などの痛み)」を抱える退役軍人さんに対して、電話で行う面接のサポートが本当に必要かどうかを調べた研究です。
ふだんリハビリテーション科や整形外科で診ているような、腰痛や関節痛などの話につながる内容ですので、専門用語はできるだけかみくだいてお伝えします。

目次

研究の背景・目的

この研究では、退役軍人の方の筋骨格系の痛みに対して、「電話ベースの動機づけ面接(Motivational Interviewing to Activate Pain Support:MAPS)」という方法が、どのくらいお金がかかり、そのお金に見合う効果があるのかを調べました。
「動機づけ面接(Motivational Interviewing)」とは、医療者が一方的に指示するのではなく、電話での対話を通して、患者さん自身が「痛みとどう向き合うか」「どんな治療や生活改善をしていくか」を自分で考え、行動しやすくなるようにサポートする面接技法です。
このMAPSを行った場合と、ふだん通りの診療だけを行った場合(通常診療)を比べて、どちらが費用対効果(かかった費用に対してどれだけの効果があったか)の面で優れているかを検証することが目的でした。

調査の方法(対象など)

この研究は、アメリカの退役軍人医療を担当する組織である「米国退役軍人省(U.S. Department of Veterans Affairs:VA)」のうち、ニューイングランド地域にある6州の8つの医療センターで行われました。
研究の形は「二群並行群・多施設ランダム化実用的臨床試験」といって、参加した方をくじ引きのような方法(ランダム化)で2つのグループに分け、一方はMAPSを受け、もう一方は通常診療のみを受ける形で、同じ期間に並行して経過を追う方法です。「実用的臨床試験」というのは、日常診療に近い条件で行う臨床試験という意味です。
観察期間は36週間(約9か月)で、退役軍人の方1101人が登録され、そのうち945人のデータを使って費用対効果の分析が行われました。

研究の結果

MAPSを行うためにかかった介入コストは、1人あたり300ドルでした。
MAPSを受けたグループでは、理学療法(Physical Therapy:PT。運動療法や物理療法などを通じて機能回復を目指すリハビリ)や鍼治療(はり治療)などの利用が増え、その結果、筋骨格系の痛みに関する医療費は1人あたり1,508ドル多くかかっていました(統計学的に偶然とは考えにくい差で、p<0.001)。
一方で、「社会的視点」といって、医療費だけでなく仕事を休んだことによる生産性の低下なども含めた全体の費用を見た場合、MAPSを受けたグループの総費用は1人あたり1,258ドル高くなっていましたが、この差は統計学的にははっきりした差とは言えない結果でした(p=0.52)。

結論:今回の研究でわかったこと

36週間(約9か月)の経過を見た範囲では、電話による動機づけ面接(MAPS)は、痛みの程度を少し和らげる効果はみられました。
一方で、「QOL(Quality of Life:生活の質。日常生活のしやすさや満足度などを含めた指標)」や、「QALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年。健康状態と生存期間を組み合わせて評価する指標)」といった、生活の質を数値化した指標の改善はあまりはっきりしませんでした。
また、医療システムの立場、つまり病院や保険制度などから見た医療費の面では、MAPSを導入すると費用が増える結果となっており、この方法を広く取り入れるかどうかは、慎重に判断する必要があると考えられました。

実際の診察ではどう考えるか

今回のように36週間という比較的短い期間で見ると、MAPSはQALYという指標でみた「費用対効果が良い治療」とまでは言いにくく、医療システム側から見るとコスト(費用)は増える傾向にありました。
一方で、「社会的費用」と呼ばれる、仕事を休んだり家事ができなくなったりすることで生じる生産性の損失が、全体の費用の大部分を占めており、医療費そのものはその中のごく一部にとどまっていました。
そのため、実際の診療では、「医療費だけを見るのか」「患者さんの生活や社会全体への影響も含めて見るのか」によって、このような電話面接の価値のとらえ方が変わってくる可能性があります。


参考文献

  • The cost-effectiveness of motivational interviewing to activate pain support in veterans seeking compensation for musculoskeletal conditions: multisite randomised clinical trial.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42665354/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

CLINIC & ACCESS

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

かわな・いりなか・八事 昭和区・瑞穂区・千種区・天白区

お身体のご相談は当院へ。

世界標準の医療サービスで
一人ひとりの健康と繋がりを支える

GOOGLE MAPS現在地からのルート
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次