膝蓋大腿痛症候群で低負荷血流制限トレーニングは有効か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:膝蓋大腿痛症候群で低負荷血流制限トレーニングは有効か?
  • 英語タイトル:Low-Intensity Blood Flow-Restricted Multi-Joint Exercise Improves Muscle Function in Patients With Patellofemoral Pain Syndrome: A Randomized Trial.

このテーマは、リハビリテーションや整形外科の外来でよく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、日常の診察でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

【背景】膝蓋大腿痛症候群(Patellofemoral Pain Syndrome、PFPS)は、膝のお皿(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)のあたりに痛みが出る状態を指します。特に階段を降りるときなどに膝の前側が痛くなり、日常生活の質(Quality of Life、QOL:生活のしやすさや満足度)が下がりやすいとされています。
一般的には、高い負荷をかける筋力トレーニング(高負荷レジスタンストレーニング)が勧められますが、痛みが強くてそのようなトレーニングが難しい方も少なくありません。そこで、比較的軽い負荷でも、重い負荷に近い効果が期待されている「血流制限トレーニング(Blood Flow Restriction、BFR:専用のベルトなどで血流を一時的に制限しながら行う筋トレ)」が、この病気に対して役に立つかどうかが調べられました。

調査の方法(対象など)

【対象と方法】膝蓋大腿痛症候群(PFPS)の患者さん41名を対象に、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:くじ引きのようにグループ分けして比べる研究)という方法で2つのグループに分けて調べました。評価を行う人には、どちらのグループか分からないようにする「評価者盲検」という方法がとられています。
実験群では、複数の関節を同時に使う筋力トレーニング(多関節レジスタンス運動)に、血流制限(BFR)を組み合わせました。対照群では、同じ運動を行いますが、血流制限は行いませんでした。
どちらのグループも、週2回の頻度で6週間トレーニングを行いました。
効果の評価としては、
・圧痛閾値(Pressure Pain Threshold、PPT:どのくらいの圧力で痛みを感じ始めるかを測る検査)
・太ももの前の筋肉である大腿四頭筋(Quadriceps:膝を伸ばす筋肉)の筋トーン(筋肉の張り具合)と硬さ
・膝を伸ばすときの等尺性筋力(Isometric Strength:関節を動かさずに力だけを出したときの筋力)
・Yバランステスト(Y Balance Test:片脚立ちで手を伸ばしてバランスを見るテスト)と、階段を降りる動作(階段下降タスク)によるバランス能力
などが調べられました。

研究の結果

【結果】血流制限トレーニング(BFR)を行ったグループは、行わなかった対照群と比べて、いずれの項目でも統計学的に意味のある大きな改善がみられました(すべてP<0.05:偶然だけでは説明しにくい差が出たという意味です)。
膝を伸ばす筋力は、BFR群のほうが増え方が大きくなっていました。また、圧痛閾値(PPT)が上がり、同じ強さの刺激でも痛みを感じにくくなっていました。
Yバランステストや階段を降りるテストの成績も、BFR群でよりよくなっていました。
さらに、太ももの前側の内側広筋・外側広筋(Vastus Medialis / Vastus Lateralis:大腿四頭筋の一部)の筋トーンと硬さ、そして太ももの裏側の半腱様筋(Semitendinosus:ハムストリングの一部)の筋の硬さが増加しており、筋肉の機械的な性質(筋機械特性:筋肉の張りや硬さなどの性質)が、機能的に良い方向に変化している可能性が示されました。

結論:今回の研究でわかったこと

低い負荷で行う血流制限(BFR)を組み合わせた多関節運動は、同じ強さの低負荷運動だけを行う場合と比べて、膝を伸ばす筋力や痛みを感じ始める閾値(痛み閾値)、バランス能力をより改善する結果となりました。
そのため、膝蓋大腿痛症候群(PFPS)の患者さんのうち、高い負荷のトレーニングが痛みのために難しい方にとって、低負荷BFRトレーニングは一つの有望な選択肢となる可能性が示されています。

実際の診察ではどう考えるか

【臨床のヒント】高い負荷のトレーニングをすると痛みが強くなってしまい、続けるのが難しい膝蓋大腿痛症候群(PFPS)の患者さんでは、低い負荷で行う血流制限(BFR)を組み合わせた多関節運動が、筋力と痛みを感じにくくなる閾値(痛み閾値)、そしてバランス能力を同時に高める方法として検討できる可能性があります。
一方で、この研究は参加した人数(サンプルサイズ)や、どのくらいの期間追いかけたか(追跡期間)が限られているため、長期的な効果などについては今後の検討が必要です。また、血流制限トレーニングには向かない方(BFR禁忌)がいないかを事前にしっかり確認することや、血流をどの程度制限するかという圧の設定を安全に管理することが重要とされています。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 難病指定医(協力難病指定医)

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • テニス

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