脳卒中片麻痺で経皮的脊髄刺激併用歩行訓練は歩行能力を改善するか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:脳卒中片麻痺で経皮的脊髄刺激併用歩行訓練は歩行能力を改善するか?
  • 英語タイトル:Effects of transcutaneous spinal stimulation with gait training on walking-related outcomes in stroke survivors: a systematic review.

このテーマは、脳卒中(のうそっちゅう:脳の血管がつまったり、破れたりする病気)のあとに残る「片麻痺(かたまひ:体の片側の手足が動きにくくなる状態)」のリハビリで、実際によく問題になる内容です。
ふだん診察室でお話ししているようなイメージで、専門用語もできるだけかみくだいて説明していきます。

目次

研究の背景・目的

脳卒中のあとには、歩きにくさ(歩行障害)が残ることが多く、そのために「自分ひとりでどこまで生活できるか(自立度)」や「転びやすさ(転倒リスク)」、「生活の質(QOL:Quality of Life=どれだけ自分らしく生活できているか)」に大きく影響してきます。
これまでの一般的な歩行リハビリテーションでは、ある程度までは「歩く速さ」や「歩ける距離」が良くなりますが、途中でそれ以上はなかなか伸びない、という限界があるとされています。
そこで、「経皮的脊髄刺激(TSS:Transcutaneous Spinal Stimulation)」という方法が注目されています。これは、皮膚の上から電気刺激をあてて脊髄(せきずい:脳からの命令を手足に伝える太い神経の束)を刺激し、手足の動きを助けようとする治療法です。
今回の研究では、従来の歩行リハビリに、この経皮的脊髄刺激を組み合わせることで、歩行機能をさらに高められるかどうかを調べることが目的とされています。

調査の方法(対象など)

この研究では、脳卒中を経験して生存している方(脳卒中サバイバー)を対象にした「ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)」だけを集めて調べています。
ランダム化比較試験とは、参加する人をくじ引きのような方法でグループに分けて、新しい治療と従来の治療を公平に比べる研究のやり方です。
主要な医学データベース(医学論文を集めた大きなデータの集まり)から、条件に合う研究を系統的に探し出しました。
ここで使われた「カソードTSS」とは、電気刺激のマイナス極(カソード)を使う経皮的脊髄刺激の方法です。このカソードTSSをしながら行う歩行訓練と、「シャム刺激(見た目は刺激をしているように見えるが、実際には効果のない弱い刺激や偽の刺激)」または「歩行訓練だけ」を行うグループを比べました。
評価の中心となった「一次アウトカム」としては、主に「歩く速さ(歩行速度)」や「どれくらいの距離・時間を歩き続けられるか(歩行耐久性)」などが用いられました。

研究の結果

カソードTSSを併用したグループでは、
・歩く速さ(歩行速度)
・どれくらい歩き続けられるか(歩行耐久性)
・一定時間あたりの歩数(ケイデンス:cadence)
・麻痺している側の足の筋力(麻痺側下肢筋力)
といった、主要な評価項目(一次アウトカム)が、対照グループ(シャム刺激や歩行訓練のみのグループ)よりも、全体としては良くなる傾向がみられました。
一方で、「バランス能力」や「日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living=食事・着替え・トイレなど、ふだんの生活で必要な動き)」といった、主要ではない評価項目(二次アウトカム)への影響は、あまり大きくないとされています。
また、プラス極(アノード)を使った刺激方法については、はっきりした効果があるかどうかは、この研究ではよく分からないという結果でした。

結論:今回の研究でわかったこと

カソード経皮的脊髄刺激(TSS)を歩行訓練に組み合わせると、歩く速さや歩き続ける力などの主要な指標(一次アウトカム)が、
「中等度の確実性(moderate certainty:ある程度信頼できるが、まだ変わる可能性もあるレベル)」で良くなる可能性があると考えられます。
一方で、バランス能力などの二次アウトカムについては、影響は限られているとされています。

実際の診察ではどう考えるか

カソードTSSを組み合わせた歩行訓練は、脳卒中後のリハビリで「歩く速さ」や「歩ける距離」が頭打ちになっている方に対して、そうした主要な指標(一次アウトカム)をもう一段階引き上げるための、補助的な選択肢になりうると考えられます。
ただし、バランス能力の改善については、この方法だけでは十分とは言えず、バランス訓練など、別のリハビリ介入をあわせて行う必要があるとされています。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科 院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 難病指定医(協力難病指定医)

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • テニス

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次