この記事の要点
- 日本語タイトル:前庭神経鞘腫手術前のプレハビリは術後回復を本当に改善するか?
- 英語タイトル:Preoperative interventions to improve clinical results in patients with vestibular schwannoma: A systematic review.
このテーマは、リハビリテーションや整形外科だけでなく、脳神経外科や耳鼻咽喉科の診療でもよく話題になる内容です。
専門的な医学用語も出てきますが、できるだけかみくだいて、普段の診察室でお話しするようなイメージで説明していきます。
研究の背景・目的
「前庭神経鞘腫(ぜんていしんけいしょうしゅ)」とは、耳の奥にある前庭神経(ぜんていしんけい:体のバランスを感じ取る神経)にできる良性の腫瘍(できもの)のことです。
この腫瘍を手術で取ると、多くの方で前庭機能(体のバランスを保つための働き)が急に低下し、その結果としてふらつきやバランスの悪さが出やすくなります。
こうした症状が続くと、日常生活のしづらさが増え、「QOL(Quality of Life、生活の質)」が下がってしまうことが問題になります。
そこで、手術の前から「プレハビリ(prehabilitation、手術前に行うリハビリテーション)」を行うことで、手術後の回復を助けられるのではないか、という点に注目が集まっています。
この研究では、前庭神経鞘腫の手術前に行うプレハビリが、本当に術後の回復やバランスの改善に役立つのかどうかを調べることを目的としています。
調査の方法(対象など)
この研究では、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses、システマティックレビューとメタ解析のための国際的な報告ガイドライン)2020年版のルールに沿って、医学論文のデータベースを系統的に検索しました。
その中から、前庭リハビリテーション(vestibular rehabilitation、バランス機能を鍛えるための専門的なリハビリ)を行った例や、鼓室内ゲンタマイシン(gentamicin、耳の鼓室内に注射して前庭機能を弱める治療)を手術前に行った例を含む研究を集めて、まとめて検討しました。
研究の結果
入院期間がどれくらい短くなるかについては、「ベイズランダム効果メタ解析(Bayesian random-effects meta-analysis、複数の研究結果を統計的にまとめる方法)」という手法で解析されました。
その結果、入院期間を短くできる「小さな可能性」は示されましたが、信用区間(credible interval、結果の幅を示す統計的な指標)が広く、はっきりした効果があるとは言い切れない状況でした。
また、ほかの結果指標(ふらつきの程度、バランス検査、生活の質など)についても、研究ごとに評価の方法がバラバラで、全体として一つの明確な結論を出すのは難しいという結果でした。
結論:今回の研究でわかったこと
前庭神経鞘腫の手術前に行うプレハビリは、手術後の回復やバランス機能の改善を支えてくれる可能性はあります。
一方で、今ある研究から得られる「エビデンス(evidence、科学的な根拠)」はまだ不確実で、はっきりとした効果を断定できる段階ではありません。
そのため、プレハビリを行う場合には、「良さそうな面」と「まだはっきりしていない面」の両方をふまえて、慎重に取り入れていくことが必要と考えられます。
実際の診察ではどう考えるか
診察の場では、まず前庭機能検査(バランスの状態を調べる検査)などを行い、その方の前庭機能の状態を確認します。
そのうえで、一人ひとりの状態に合わせたプレハビリの内容を、手術前からご提案していくことが考えられます。
同時に、「効果が期待できる可能性はあるが、まだ十分に証明されているわけではないこと」や、「通院や自宅での運動など、患者さんご自身の負担があること」もきちんとお伝えします。
こうした情報を共有しながら、患者さんと医療者が一緒に話し合い、「共有意思決定(shared decision-making、患者さんと医療者が一緒に治療方針を決める考え方)」を行っていくことが大切だと考えられます。
参考文献
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Preoperative interventions to improve clinical results in patients with vestibular schwannoma: A systematic review.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41631467/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。
















