この記事の要点
- 日本語タイトル:ロボット歩行訓練は脊髄損傷後の排尿機能を改善するか?
- 英語タイトル:Effects of Robot-Assisted Gait Therapy on Urodynamic Changes in the Subacute Phase After Spinal Cord Injury: A Prospective Study.
このテーマは、リハビリテーション科や整形外科で、脊髄(せきずい:背骨の中を通る太い神経の束)のけがをされた方を診るときに、よく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の外来でお話しするような形で説明していきます。
研究の背景・目的
【背景】脊髄損傷(Spinal Cord Injury:背骨の中の神経が傷つくけが)のある方の多くは、膀胱(ぼうこう:尿をためる袋)の働きに障害が起こります。そのまま適切に管理されないと、腎臓(じんぞう)から膀胱までの「上部尿路(じょうぶにょうろ)」と呼ばれる部分に負担がかかり、腎機能が悪くなるなどの問題につながるおそれがあります。
排尿の状態を詳しく調べるための標準的な検査が「尿流動態検査(Urodynamic Study:膀胱に水を入れながら、圧力や尿の出方を測る検査)」です。ただ、ロボット支援歩行トレーニング(Robot-Assisted Gait Training:ロボットを使って歩行練習を行うリハビリ)が、膀胱の働きにどのような影響を与えるかについては、これまで十分には調べられていませんでした。
調査の方法(対象など)
【対象と方法】脊髄損傷を受けてから3か月〜2年の患者さん35人を対象にしました。患者さんをランダムに2つのグループに分け、一方のグループにはロボット支援歩行トレーニング(RAGT、Robot-Assisted Gait Training、ロボット支援歩行療法)を7週間行いました。もう一方のグループは「ダイナミックパラポディウム」という機器を使って訓練を行いました(いずれも、体を支えながら立位や歩行の練習を行うための装置です)。
訓練を始める前と7週間後に、尿流動態検査(Urodynamic Study)を行い、膀胱容量(どれくらい尿をためられるか)、排尿欲求(尿意の感じ方)、尿流率(尿の出る速さ)、残尿量(排尿後に膀胱に残る尿の量)、コンプライアンス(膀胱がどれくらい柔らかくふくらめるか)、外尿道括約筋(がいにょうどうかつやくきん:尿を出す・こらえるときに働く筋肉)の機能を比較しました。
研究の結果
【結果】ロボット支援歩行トレーニング(RAGT)を受けたグループでは、全体として「排尿にかかる時間が短くなる傾向」がみられました。特に、脊髄が「不完全損傷(Incomplete Injury:神経が一部つながっていて、感覚や動きが少し残っている状態)」の方では、最大尿流率と平均尿流率(尿が出る速さの指標)がはっきりと上がり、排尿にかかる時間も短くなっていました。
一方で、脊髄が「完全損傷(Complete Injury:その部分より下の神経の感覚や動きがほとんどない状態)」の方では、膀胱コンプライアンス(膀胱のふくらみやすさ)の変化はあまり見られず、排尿機能の改善は限られていました。
また、不完全損傷の中でも、腰髄レベル(ようずいレベル:腰のあたりの脊髄)に損傷がある方では、膀胱容量や排尿欲求の変化が小さく、脊髄のどの高さに損傷があるかによって、ロボット歩行訓練への反応が違う可能性が示されました。
結論:今回の研究でわかったこと
脊髄損傷後の「不完全損傷」の患者さんにロボット支援歩行トレーニングを行うと、排尿にかかる時間や尿流率(尿の出る速さ)など、尿流動態検査で測るいくつかの指標が良くなる可能性がある、という結果でした。
そのため、ロボットを使った歩行訓練は、「歩くためのリハビリ」に加えて、「神経因性膀胱(Neurogenic Bladder:脊髄や脳の障害が原因で起こる膀胱機能障害)」の治療方法のひとつとして、選択肢になりうると考えられます。
実際の診察ではどう考えるか
【臨床のヒント】ロボット支援歩行トレーニング(RAGT)は、不完全脊髄損傷の患者さんでは、排尿機能の改善が期待できる可能性がありますが、完全損傷の患者さんでは、その効果は限られる可能性があります。
実際の診療では、脊髄損傷の高さ(損傷レベル)や、腎臓・尿管など上部尿路への負担の程度といったリスクをよく考えながら、薬物療法や自己導尿、他のリハビリなどと組み合わせて、「包括的なリハビリテーション」の一つの要素として位置づけていくことが大切と考えられます。
参考文献
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Effects of Robot-Assisted Gait Therapy on Urodynamic Changes in the Subacute Phase After Spinal Cord Injury: A Prospective Study.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41635036/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。
















