この記事の要点
- 日本語タイトル:頸髄損傷後の入院リハ中mFIM改善量は1年後・5年後の機能的自立を予測しうるか?
- 英語タイトル:Recovery rate of functional motor independence during inpatient rehabilitation after traumatic cervical spinal cord injury predicts functional status at years 1 and 5 after surgery: A multicenter, longitudinal cohort study.
ここで取り上げる内容は、リハビリテーション科や整形外科で、日常的に問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、できるだけかみくだいて、普段の診察でお話しするような言葉で説明していきます。
研究の背景・目的
「頸髄外傷(けいずいがいしょう)」とは、首の部分にある脊髄(せきずい:脳からの命令を手足に伝える太い神経)が事故などで傷つくことを指します。
このけがにより、両手両足が動きにくくなる「四肢麻痺(ししまひ)」が起こり、長い目で見たときに、どこまで「ADL(Activities of Daily Living、日常生活動作:食事・トイレ・着替え・移動など)」を自分でこなせるようになるかが大きな課題になります。
現在は、できるだけ早い時期に手術で脊髄の圧迫を取り除く「早期手術」と、早い段階からのリハビリテーション(以下リハ)がすすめられています。
一方で、「AIS(American Spinal Injury Association Impairment Scale、アメリカ脊髄損傷協会機能障害スケール)」という重症度分類で、
A:完全麻痺(感覚も運動もほとんど残っていない)
B:感覚は一部残るが、運動はほとんどできない
といった、重い頸髄損傷の方について、
・どこまで「機能的自立(機能的に自分で生活動作をこなせる状態)」を目指せるのか
・入院中のリハ期間にどれくらい良くなったか(mFIMの改善量)が、その後の長期的な自立の程度をどのくらい予測できるのか
といった点は、はっきりとはわかっていませんでした。
この研究は、その部分を明らかにすることを目的としています。
調査の方法(対象など)
この研究では、アメリカで行われている「SCIMS(Spinal Cord Injury Model Systems、脊髄損傷モデルシステム)」という、多くの医療機関が参加している大きなデータベースを利用しました。
この中から、首の脊髄がけがで傷つき、「AIS A/B」に分類される重い頸髄損傷の方で、手術による「外科的除圧術(がいかてきじょあつじゅつ:骨や靱帯などで圧迫されている脊髄の圧迫を取り除く手術)」を受けた351人を選び、過去の記録をさかのぼって調べる「後ろ向き解析」という方法で検討しました。
リハビリ専門病院などへの入院リハ開始時と、退院時の「motor FIM(モーターFIM:Functional Independence Measure、機能的自立度評価のうち、運動・動作に関する項目の点数)」を使って、
退院時の点数 − 入院時の点数 = ΔmFIM(デルタmFIM:入院リハ中にどれだけ運動機能の自立度が改善したかを表す値)
を計算しました。
そして、手術から1年後と5年後の時点で、「機能的自立」を達成できていたかどうかとの関係を、「多変量ロジスティック回帰(たへんりょうロジスティックかいき:年齢やけがの重さなど、いくつもの要因を同時に考慮して、どの要因が自立にどれくらい関係しているかを統計的に調べる方法)」を使って解析しました。
研究の結果
対象となった351人のうち、リハビリ開始時点でAIS A(完全麻痺)の方が約3分の2を占めていました。
また、その中で「人工呼吸器などの呼吸補助(自分の呼吸だけでは足りず、機械などで呼吸を助ける治療)」が必要だった131人のうち、5年後の時点で機能的自立まで到達していたのは12人でした。
全体として、手術から1年後の時点で自立していたのは43人で、その後1年から5年のあいだに新たに自立まで回復した人は12人でした。
1年後と5年後のどちらの時点でも、入院リハ中のΔmFIM(mFIMの改善量)が、「機能的自立を達成できるかどうか」を予測するうえで、最も強く関係している要因として残りました。
これは、けがの重さを示すAISのグレードそのものよりも、入院リハ中にどれだけmFIMが改善したかの方が、長期的な自立と強く結びついていた、という結果でした。
結論:今回の研究でわかったこと
AIS A/Bという重い頸髄損傷の方であっても、入院リハ中にmFIMが大きく改善した場合には、手術から1年後だけでなく5年後の「機能的自立」の達成を、最も強く予測できる指標になると考えられました。
この結果は、完全麻痺に近いような重い状態の方でも、早い時期から集中的なリハビリを続けていくことに、一定の意味がある可能性を示すものとされています。
実際の診察ではどう考えるか
AIS A/Bという重い頸髄損傷の方でも、入院リハ中にmFIMが大きく改善している場合には、たとえ手術から1年の時点で自立まで到達していなくても、その後5年までのあいだに機能的自立を獲得できる可能性が比較的高いと考えられます。
そのため、長い期間を見すえながら、集中的なリハビリを続けていくことには、一定の価値があると考えられます。
参考文献
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Recovery rate of functional motor independence during inpatient rehabilitation after traumatic cervical spinal cord injury predicts functional status at years 1 and 5 after surgery: A multicenter, longitudinal cohort study.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41784327/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















