この記事の要点
- 日本語タイトル:足底筋膜炎:在宅デジタル運動は病院理学療法より得か?
- 英語タイトル:Home-based digital exercise versus hospital physiotherapy for plantar fasciitis: a propensity-score-matched retrospective cohort study with dual-perspective cost-utility evaluation.
ここでは、かかとの痛みの原因としてよくみられる「足底筋膜炎(そくていきんまくえん:かかとから足の指の付け根まである膜状の組織に炎症が起きる病気)」について、
「自宅で行うデジタル運動プログラム」と「病院で受ける理学療法(りがくりょうほう:理学療法士が行う運動療法や物理療法)」を比べた研究を紹介します。
専門的な内容も出てきますが、できるだけ日常の診察でお話しするような言葉で説明していきます。
研究の背景・目的
足底筋膜炎では、これまで「病院に通って理学療法を受ける」ことが一般的な治療のひとつとされています。
ただ、通院には「時間がかかる」「交通費などのお金がかかる」「病院が遠くて通いにくい」といった負担が出やすい面があります。
そこで、最近はスマートフォンやタブレットなどを使って、自宅で指示に従いながら行う「在宅デジタル運動プログラム」が注目されています。
この研究では、「在宅デジタル運動プログラム」が、
・痛みの改善という点で、病院での理学療法と比べて実用的かどうか
・かかる費用に対してどれくらい効果があるか(費用対効果:ひようたいこうか)
という2つの点で、病院での理学療法と比べてどうかを調べることを目的としています。
調査の方法(対象など)
この研究は「単施設後ろ向きコホート研究(たんしせつ・こうろむき・コホートけんきゅう)」という方法で行われました。
・単施設:1つの病院だけで行われた研究という意味です。
・後ろ向き:すでに行われた診療の記録をさかのぼって調べる方法です。
・コホート研究:ある条件の人たちの集団を追いかけて、経過や結果を比べる研究のことです。
さらに「1:2傾向スコアマッチング(けいこうスコアマッチング)」という統計学的な方法を使っています。これは、年齢や性別、病気の重さなどができるだけ似た人同士を組み合わせて、2つの治療法を公平に比べようとする手法です。
対象となったのは、2022〜2024年に中国の三次医療機関(さんじいりょうきかん:高度な専門治療を行う大きな病院)で足底筋膜炎と診断された成人587人です。
この人たちについて、
・12週間(約3か月)続ける「在宅デジタル運動プログラム」を行ったグループ
・病院で理学療法士の監督のもとで「理学療法」を受けたグループ
を比較しました。
そして、
・3か月後の痛みの程度
・12か月(1年)にわたってかかった費用と、健康状態の質を表す「QALY(キューエーエルワイ:Quality-Adjusted Life Year、質調整生存年。健康状態の良さと生存期間を合わせて評価する指標)」
を評価しています。
研究の結果
3か月後の「朝起きて最初に歩き出したときの痛み」について、在宅デジタル運動と病院での理学療法を比べたところ、
調整平均差(ちょうせいへいきんさ:年齢などの条件をそろえたうえでの2群の平均の差)は -0.63ポイントでした。
これは「95%信頼区間(95%CI:統計的に、真の値がこの範囲に入っていると考えられる幅)」が -0.92〜-0.35、p値(p<0.001:偶然こうなったとは考えにくいという統計的な指標)と報告されています。
この結果から、「在宅デジタル運動は、痛みの改善について病院での理学療法に劣らない(非劣性:ひれつせい)」という条件を満たしたと判断されています。
費用と効果については、12か月間でかかったお金とQALYをもとに評価しています。
・ペイヤー視点(ペイヤー:医療費を支払う側。保険者や公的医療保険などの立場)で見たときの増分費用(ぞうぶんひよう:2つの治療法の費用の差)は -¥4,920でした。
・社会的視点(社会全体としての費用。医療費だけでなく、通院にかかる時間や生産性の損失なども含めて考える見方)での増分費用は -¥7,008でした。
マイナスということは、在宅デジタル運動のほうが費用が少なくて済んだという意味です。
一方、増分QALY(ぞうぶんキューエーエルワイ:2つの治療法で得られたQALYの差)は +0.011で、在宅デジタル運動のほうがわずかに良い結果でした。
これらを総合して費用対効果を評価したところ、在宅デジタル運動が費用の面と効果の面の両方で優れていると判断される確率は96.7%と報告されています。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究では、足底筋膜炎に対して12週間行う在宅デジタル運動プログラムは、
・3か月後の「朝起きて最初に歩くときの痛み」に関して、病院での理学療法と比べて劣らない(非劣性)と判断されたこと
・12か月間でみた医療費や社会的なコストが、病院での理学療法よりも低くなる可能性が示されたこと
が報告されています。
一方で、この研究は1つの医療機関だけで行われた観察研究(おこなわれた診療を観察して比べる研究)であり、
「残余交絡(ざんよこうらく:統計的に調整しきれなかった要因が結果に影響している可能性)」や
「選択バイアス(せんたくバイアス:どの治療を受けるかの選ばれ方に偏りがあり、その偏りが結果に影響している可能性)」
が比較的高いと考えられる点には注意が必要とされています。
実際の診察ではどう考えるか
この研究結果からは、在宅デジタル運動プログラムは、
・痛みの改善について病院での理学療法と同じくらいの効果が期待できる可能性があること
・費用の面では、医療費や社会的なコストを減らせる可能性があること
が示されており、特に通院が難しい患者さんにとっては、有望な選択肢のひとつになりうると考えられます。
ただし、この研究では「傾向スコアマッチング」で条件をそろえようとしたにもかかわらず、13個の共変量(きょうへんりょう:年齢や合併症など、結果に影響しうる要因)のうち12個で、2つのグループのバランスが十分にはとれていませんでした。
また、実際に研究に登録されたのは、スクリーニング(条件に合うかどうかの事前チェック)された患者さん全体の6.3%にとどまっており、
・残余交絡(調整しきれていない要因の影響)
・選択バイアス(どの治療を受ける人が研究に入ったかの偏り)
といった点への懸念が大きいとされています。
そのため、診察の場では、この研究結果を参考にしつつも、患者さん一人ひとりの生活環境、通院のしやすさ、他の病気の有無、希望などを総合的に考えながら、主治医と相談して治療方法を選んでいくことが大切です。
参考文献
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Home-based digital exercise versus hospital physiotherapy for plantar fasciitis: a propensity-score-matched retrospective cohort study with dual-perspective cost-utility evaluation.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42683610/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

