骨粗鬆症は、骨折する前に見つける時代へ

目次

骨密度を測り、治療を続けることが未来の生活を守る

先日、奈良県の自治体で開催された骨粗鬆症の市民講座に登壇しました。

この地域で骨粗鬆症についてお話しするのは、今回で4年目になります。

初めて講演した頃と比べると、参加された皆さんの関心や知識は明らかに高くなっていました。質問もより具体的になり、骨密度検査や治療薬、副作用、歯科との連携など、実際の治療に踏み込んだ内容が増えています。

行政、医療機関、歯科医療機関が連携しながら、毎年継続して啓発活動を行ってきた成果だと感じました。

骨粗鬆症は、自覚症状がないまま進行し、骨折して初めて見つかることの多い病気です。

だからこそ、「痛くなってから病院へ行く」のではなく、まず自分の骨の状態を知ることが大切です。


骨の強さは、外見では分かりません

自分の体重が適正かどうかは、体重計に乗れば分かります。

血圧が高いかどうかは、血圧計で測れば分かります。

しかし、自分の骨が強いかどうかは、見た目や感覚だけでは判断できません。骨粗鬆症が進行していても、骨折するまでは痛みがないことも少なくありません。

そのため、骨の健康を守る第一歩は、骨密度を測ることです。

特に、次のような方は一度検査を検討していただきたいと思います。

・閉経後の女性
・高齢の方
・やせている方
・過去に背骨、手首、脚の付け根などを骨折した方
・ご家族に骨粗鬆症や大腿骨近位部骨折の既往がある方
・ステロイド薬を長期間使用している方
・食事量が少ない方
・運動する機会が少ない方
・身長が以前より低くなった方
・背中や腰が曲がってきた方

自治体によっては、一定年齢の女性を対象とした骨粗鬆症検診も行われています。

また、医療機関では、年齢や既往歴などから骨粗鬆症が疑われる場合、骨密度検査や血液検査を保険診療で行えることがあります。


なぜ女性は骨粗鬆症になりやすいのか

骨は、一度作られたら変化しない組織ではありません。

古い骨を壊す働きと、新しい骨を作る働きを繰り返しながら、常に生まれ変わっています。

年齢を重ねると、男女ともに食事量や運動量が減り、骨を作る力が低下していきます。

さらに女性の場合は、閉経後に女性ホルモンが減少します。

女性ホルモンには、骨が過剰に壊されるのを抑える働きがあります。そのため、閉経によって女性ホルモンが減ると、骨が壊されるスピードが急に速くなります。

例えるなら、底に穴の開いたバケツに水を入れているような状態です。

カルシウムやビタミンDを摂取して骨を作ろうとしても、それ以上の速さで骨が失われてしまうことがあります。

このため、特に閉経後の女性では、症状がなくても骨密度を確認しておくことが重要です。


骨密度が高ければ、骨折しないとは限りません

骨の強さを考える際には、「骨密度」だけでなく「骨質」も重要です。

骨を建物に例えると、骨密度はコンクリートの量、骨質は鉄筋の状態に近いものです。

コンクリートが十分にあっても、内部の構造が弱ければ、強い衝撃に耐えられないことがあります。

同じように、骨密度が治療基準を上回っていても、年齢、過去の骨折、転倒しやすさ、糖尿病、ステロイド使用などの影響によって、骨折することがあります。

反対に、骨密度がやや低くても、筋力があり、転倒リスクが低く、生活習慣が整っていれば、すぐに骨折するとは限りません。

そのため実際の診療では、骨密度の数字だけで判断するのではなく、

・これまでに骨折したことがあるか
・どの部位を骨折したか
・血液検査で骨代謝がどのような状態か
・転倒する危険性が高くないか
・食事や運動の状況
・ほかに服用している薬
・今後の骨折リスク

などを総合的に評価します。


血液検査では「骨の動き」を確認します

骨密度検査は、これまでの結果として現在どの程度の骨量があるかを確認する検査です。

一方、血液検査では、骨が作られるスピードと、壊されるスピードを確認できます。

骨密度が低い方のなかにも、

・骨が過剰に壊されている方
・新しい骨を作る力が低下している方
・両方のバランスが崩れている方

がいます。

この違いによって、適した治療薬も変わることがあります。

また、治療開始後に血液検査を行うことで、薬が効いているか、副作用が出ていないかを比較的早い段階で確認できます。

骨密度は短期間では大きく変化しませんが、血液中の骨代謝マーカーは、治療開始後の変化を把握する手掛かりになります。


骨粗鬆症の薬は、怖い薬なのでしょうか

骨粗鬆症治療を提案すると、

「薬を飲むと顎の骨が悪くなると聞きました」
「長く飲むと、かえって骨折すると聞きました」
「歯の治療ができなくなるのではないですか」

と相談されることがあります。

骨粗鬆症治療薬の一部には、顎骨壊死や非定型大腿骨骨折といった、まれな副作用が報告されています。

しかし、ここで大切なのは、副作用が「あるか、ないか」だけではなく、その発生頻度と、治療しなかった場合の骨折リスクを比較することです。

副作用のリスクを必要以上に恐れて治療を中断し、その結果として背骨や脚の付け根を骨折してしまえば、生活への影響は非常に大きくなります。

一方で、虫歯や歯周病がある方、抜歯などの処置を予定している方では、治療開始前に歯科で状態を確認することが大切です。

薬を避けるのではなく、口腔内を整えたうえで、安全に治療を続ける。

そのためには、整形外科と歯科の連携が欠かせません。


医科歯科連携では「現場の負担を減らす」ことが重要

以前勤務していた地域では、骨粗鬆症治療を行う医療機関と歯科医療機関との連携に取り組みました。

連携を進める際に重要だったのは、紹介状や返信書類をできるだけ簡単にすることでした。

医師も歯科医師も、連携の必要性自体は理解しています。

しかし、毎回長い紹介状を作成し、返信文書を書く必要があると、忙しい診療のなかでは継続が難しくなります。

そこで、

・必要事項にチェックを入れる
・問題の有無を選択する
・必要な場合だけ短いコメントを書く

という形式にすることで、双方の負担を減らしました。

良い制度を作るだけでは、医療連携は進みません。

実際に現場で続けられる仕組みにすることが重要です。

新しいクリニックでも、地域の歯科医療機関と協力し、患者さんが安心して骨粗鬆症治療を受けられる体制を作りたいと考えています。


薬は、生活に合わせて選ぶことができます

骨粗鬆症の治療薬には、多くの種類があります。

毎日または週に1回服用する薬、月に1回の薬、定期的に注射する薬、骨を作る働きを強く促す薬など、投与方法も作用もさまざまです。

たとえば、一部の飲み薬では、朝起きてすぐに服用し、その後しばらく横にならず、食事を控える必要があります。

生活リズムによっては、この飲み方を続けることが難しい方もいます。

その場合は、月に1回や半年に1回などの注射薬が適していることもあります。

大切なのは、「この薬が一番強いから」という理由だけで決めるのではなく、

・骨折のリスク
・年齢や持病
・腎臓の機能
・歯の状態
・通院できる頻度
・薬を正しく続けられるか
・患者さん本人の希望

を考慮し、無理なく継続できる治療を選ぶことです。


薬を始めることより、続けることの方が難しい

骨粗鬆症治療には、大きく二つの壁があります。

一つ目は、検査を受けて治療を始めるまでの壁。

二つ目は、始めた治療を継続する壁です。

骨粗鬆症は痛みがないことも多いため、薬を飲んでも効果を実感しにくく、途中で通院や服薬をやめてしまう方が少なくありません。

しかし、骨粗鬆症治療は、数週間で終了するものではありません。

長期的に骨折を防ぐためには、定期的に骨密度や血液検査を確認しながら、必要に応じて薬を調整することが大切です。

そのため医療機関側も、単に「次回また来てください」と伝えるだけでは不十分です。

・いつ骨密度を測るのか
・いつ血液検査をするのか
・次回は何を確認するのか
・薬をどのくらい続ける予定なのか

といった年間の見通しを示すことで、患者さんも治療を続けやすくなります。

私たち医療者には、患者さんが迷わず治療を続けられるよう、道筋を作る役割があります。


食事と運動は、薬と同じくらい大切です

骨粗鬆症は、薬を飲めばそれだけで解決する病気ではありません。

骨を維持するためには、

・カルシウム
・ビタミンD
・ビタミンK
・たんぱく質

などを意識した食事が必要です。

また、歩行や筋力トレーニングなど、骨に適度な刺激を与える運動も欠かせません。

実際に診療していると、薬を服用するだけでなく、毎日歩く、食事を見直すなど、生活習慣を改善した方ほど、良好な経過を示すことがあります。

ただし、初診時に食事、運動、薬、副作用などをすべて口頭で説明しても、一度に覚えるのは困難です。

そのため、患者さんの理解度や治療段階に合わせて、パンフレットなどの資料をお渡しすることも大切です。

「何を食べればよいのか」
「どのような運動をすればよいのか」
「転倒を防ぐために自宅をどう整えればよいのか」

を、帰宅後にもう一度確認できるようにする。

診察室で聞いて終わりではなく、生活のなかで実践できる情報として持ち帰っていただきたいと考えています。


骨折を防ぐことは、人生を守ること

大腿骨近位部や背骨の骨折は、その後の生活を大きく変えることがあります。

入院によって筋力が落ち、歩行能力が低下し、外出の機会が減る。場合によっては、介護が必要になることもあります。

本人だけでなく、支えるご家族の生活にも影響します。

骨粗鬆症治療の目的は、骨密度の数字を上げることだけではありません。

骨折を防ぎ、いつまでも自分の脚で歩き、社会とのつながりを保ち続けることです。

骨密度を測る。

必要であれば治療を始める。

食事と運動を続ける。

歯科とも連携しながら、安全に薬を使用する。

そして、定期的に治療の効果を確認する。

一つひとつは小さな取り組みですが、それを継続することで、将来の大きな骨折を防げる可能性があります。


地域全体で、骨折を予防できる仕組みを

今回訪れた地域では、行政と医療者が継続して啓発活動を行うことで、住民の骨粗鬆症への関心が着実に高まっていました。

一度の講演や一枚のパンフレットだけで、地域全体が変わるわけではありません。

しかし、毎年少しずつ正しい知識を伝え、骨密度検査につなぎ、必要な方へ治療を届けることで、地域の健康意識は変わっていきます。

新しいクリニックでも、骨粗鬆症学会認定医として、院内での診療だけでなく、地域の市民講座や医科歯科連携にも取り組みたいと考えています。

骨折してから治療するのではなく、骨折する前に見つけ、予防する。

骨を強くするだけでなく、リハビリによって筋力やバランス能力を高め、転ばない身体を作る。

地域の皆さんが100歳まで自分の脚で歩き続けられる社会を目指して、骨粗鬆症診療に力を入れていきます。

※本記事はInstagramライブの内容をもとに、一般の方向けに再構成したものです。検査や治療の適応は、年齢、既往歴、骨密度、骨折歴、血液検査などによって異なります。実際の治療については、医師の診察を受けたうえでご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

  • かわな いりなか 八事エリア
  • 昭和区 瑞穂区 千種区 天白区

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