非外傷性下肢痛の中高生に心理教育ビデオを足す価値はある?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:非外傷性下肢痛の中高生に心理教育ビデオを足す価値はある?
  • 英語タイトル:The Effect of a Brief Psychologically Informed Education Intervention for Improving Function in Adolescents With Atraumatic Leg Pain: A Randomized Controlled Trial.

ここで取り上げるのは、リハビリテーション(身体機能の回復を目指す治療)や整形外科の外来で、よく見かける「ケガをしていないのに足が痛い中高生」のお話です。
医学用語は、できるだけかみくだいて、普段の診察室でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

思春期(おおよそ中高生の年代)の「非外傷性下肢痛(ひがいしょうせい かしつう)」とは、はっきりしたケガや打撲などの原因がないのに、太ももから足先までのどこかが痛くなる状態を指します。
この年代では、「痛み=危険」「動くと悪くなる」といった考え(これを医学的には「痛みを危険とみなす信念」や「痛み関連信念」と呼びます)が強いと、リハビリに前向きに取り組みにくくなり、回復の妨げになることがあるとされています。
そこでこの研究では、こうした痛みに対する考え方に働きかける「心理学的教育(サイコロジカル・エデュケーション:痛みの仕組みや考え方を学ぶ教育)」を、ビデオという形で短時間追加することに、どのくらい意味があるのかを調べることを目的としました。

調査の方法(対象など)

この研究は「二重盲検ランダム化比較試験(にじゅうもうまく ランダムか ひかくしけん)」という方法で行われました。
これは、新しい治療法の効果を公平に比べるための標準的な研究デザインで、患者さんも担当する医療者も、どちらのグループに入ったか分からないようにして(これが「二重盲検」です)、くじ引きのように無作為にグループ分け(これが「ランダム化」です)を行う方法です。
非外傷性下肢痛の思春期の患者さん83人を対象に、「PIEビデオ群」と「対照群」の2つのグループに分けました。
ここでのPIEは「Psychologically Informed Education(サイコロジカリー インフォームド エデュケーション:心理学的な知識を取り入れた教育)」の略で、痛みのとらえ方や考え方について説明するビデオです。
両方のグループとも、6週間の理学療法(フィジカル・セラピー:運動やストレッチなどを用いたリハビリ)を受け、そのうえで、治療前と比べてどのくらい日常生活の動きが良くなったかを、1か月後と12か月後に評価しました。

研究の結果

まず、「機能(どれくらい体を動かせるか、日常生活でどれくらい困らないか)」の変化については、時間がたつ中で2つのグループの間に大きな差はみられませんでした(統計学的な検定でP=0.40という結果でした)。
機能の変化は、「LEFS(Lower Extremity Functional Scale:ロウアー エクストリミティー ファンクショナル スケール)」という、下肢(足)の機能を点数化して評価する質問票で測りました。
治療開始から1か月後のLEFSの変化量は、PIEビデオを見たグループが12.5ポイント、対照群が8.9ポイントでした。
12か月後では、PIE群が17.1ポイント、対照群が14.9ポイントでした。
一方で、「恐怖回避(きょうふかいひ:痛みが出るのが怖くて動くことを避けてしまうこと)」「運動恐怖(うんどうきょうふ:体を動かすこと自体が怖く感じること)」「破局的思考(はきょくてきしこう:『この痛みはもうダメだ』『一生治らない』など、極端に悪い方に考えてしまうこと)」といった、痛みに関する考え方や気持ちの面は、PIEビデオ群で有意に(統計的に意味のあるレベルで)改善していました。
具体的には、1か月後に恐怖回避が改善していた人の割合は、PIE群で50%、対照群で23%、運動恐怖はPIE群50%に対して対照群8%、破局的思考はPIE群27%に対して対照群19%でした。

結論:今回の研究でわかったこと

この研究では、心理教育ビデオを追加しても、機能(体の動きや日常生活のしやすさ)や痛みの強さ、活動量そのものに対しては、はっきりとした「上乗せ効果」はあまりみられませんでした。
ただし、治療開始から1か月後の時点で、「恐怖回避」や「運動恐怖」など、痛みに関する考え方や感じ方(痛み関連信念)は、心理教育ビデオを見たグループで有意に改善していました。
つまり、このビデオは、痛みそのものを直接弱めるというより、「痛みをどう受け止めるか」「痛みがあってもどう向き合うか」といった、痛みの捉え方を変えるタイプの介入であると考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

実際の診察やリハビリの場面で考えると、短時間の心理教育ビデオを追加するだけでは、機能の改善や痛みの軽減、活動量の増加に対して、大きな上乗せ効果は期待しにくいと考えられます。
一方で、「動くと悪くなるのでは」「痛いから動かない方がいい」といった恐怖回避や運動恐怖を和らげる効果は比較的大きく、痛みに対する不安や怖さを減らす手助けにはなりうると考えられます。
そのため、思春期の下肢痛の患者さんがリハビリに参加する際、「まず一歩を踏み出す」「リハビリに前向きな気持ちになる」ための補助的なツールとして、このような心理教育ビデオを活用することには、一定の意味があると考えられます。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

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