この記事の要点
- 日本語タイトル:頸・肩痛への層別デジタル理学療法の価値は?
- 英語タイトル:Cost-effectiveness of stratified physiotherapy integrated with digital health versus usual physiotherapy for neck and/or shoulder pain: results of a cluster randomised clinical trial.
ここでは、首(頸部)や肩の痛みに対して行う「理学療法(Physiotherapy:運動やストレッチ、物理的な刺激などを使ったリハビリ)」についてのお話です。
ふだん整形外科やリハビリテーション科の外来でよく出てくるテーマですが、できるだけ専門用語をかみくだいてお伝えします。
研究の背景・目的
首や肩の痛み(頸部・肩痛)は、まず最初に受診する「プライマリケア(Primary care:かかりつけ医や一般外来など、最初に相談する医療機関)」でとてもよくみられる症状です。
このような痛みは、病院にかかる医療費がかさむだけでなく、仕事を休まざるをえない「欠勤」につながることもあり、社会全体としての負担が大きいと考えられています。
そこで、この研究では、首や肩の痛みに対して「層別デジタル理学療法(Stratified physiotherapy integrated with digital health:患者さんのリスクをグループ分けし、それに合わせた理学療法に、アプリなどのデジタルツールを組み合わせた治療)」が、ふだん通りの理学療法と比べて、お金(費用)と健康状態のバランスの面でどのくらい価値があるかを調べることを目的としました。
調査の方法(対象など)
この研究は、オランダにある24か所の理学療法の診療所で行われた、多施設プラグマティック並行群クラスターランダム化比較試験という方法を使っています。
「多施設」は複数の医療機関で行ったという意味で、「プラグマティック試験(Pragmatic trial)」は、実際の診療に近い条件で行う臨床試験のことです。
「クラスターランダム化比較試験(Cluster randomised controlled trial)」とは、患者さん個人ではなく、診療所などのグループ単位で、どの治療を行うかをランダムに振り分けて比べる方法です。
この試験にあわせて「経済評価(Economic evaluation:治療にかかる費用と、その治療で得られる健康上の効果を比較する分析)」が行われました。
対象は、18歳以上で、首および/または肩の痛みがある患者さん139人で、これらの方が登録されて分析されています。
研究の結果
まず、「社会的視点(Societal perspective:医療費だけでなく、仕事を休んだことによる損失など、社会全体の費用を含めて見る考え方)」からみた結果です。
層別デジタル理学療法(SBPA:Stratified blended physiotherapy approach)では、ふだん通りの理学療法と比べて、追加でかかった費用(増分費用)は175ユーロでした。
健康状態の改善は「QALY(Quality-Adjusted Life Year:生活の質を考慮した健康な期間を年数で表した指標)」という数字で表しますが、その差は0.001と、ほとんど差がない値でした。
費用1QALYあたりにどれくらいお金がかかったかを示す「ICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio:増分費用効果比)」は、221,123ユーロ/QALYとなりました。
この条件で、層別デジタル理学療法が費用対効果に優れているといえる確率は0.43(43%)と報告されています。
一方、「医療提供者視点(Healthcare provider perspective:病院やクリニックなど医療機関から見た費用だけを考える視点)」では、費用は47ユーロ少なくなり、QALYの差は同じく0.001でした。
この視点では、層別デジタル理学療法が費用対効果に優れているといえる確率は0.83(83%)とされています。
結論:今回の研究でわかったこと
9か月間追いかけて行った経済評価の結果では、層別デジタル理学療法(SBPA)は、ふだん通りの理学療法と比べて、QALYの差はほとんどゼロで、健康状態の改善度はほぼ同じと考えられました。
かかった費用の差も小さく、はっきりした違いがあるとは言い切れない結果でした。
社会全体の費用まで含めて考える「社会的視点」から見ると、この研究だけでは、層別デジタル理学療法が明らかに費用対効果に優れているとは判断しにくいとされています。
実際の診察ではどう考えるか
この研究で行われた条件のもとでは、患者さんをリスクごとに分けて(リスク層別:Risk stratification)、それぞれに合わせた理学療法にデジタルツール(Digital health:アプリやオンライン指導など)を組み合わせても、QALYや費用の違いはごくわずかでした。
そのため、デジタルツールを取り入れるだけで、医療費が大きく減るとまでは期待しにくい、という結果になっています。
ただし、これはあくまでこの試験の条件や期間での結果であり、個々の患者さんにとっての使いやすさや満足度など、ほかの面については別に考える必要があります。
参考文献
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Cost-effectiveness of stratified physiotherapy integrated with digital health versus usual physiotherapy for neck and/or shoulder pain: results of a cluster randomised clinical trial.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42501929/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。


