この記事の要点
- 日本語タイトル:仙腸関節障害による腰痛・下肢痛は仙腸関節マニピュレーションでどこまで改善するか?
- 英語タイトル:Sacroiliac joint manipulation for low back and radicular pain: outcomes in a 100-patient single-center cohort.
このテーマは、リハビリテーション(身体機能の回復を目指す治療)や整形外科(骨や関節、筋肉などを扱う診療科)の外来で、よく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の診察室でお話しするような形で説明していきます。
研究の背景・目的
腰の痛み(腰痛)や足にひびくような痛み(下肢痛)の原因としては、腰の骨と骨の間にあるクッションである腰椎椎間板(ようついついかんばん、英語名:lumbar intervertebral disc)だけでなく、骨盤の一部である仙腸関節(せんちょうかんせつ、英語名:sacroiliac joint)に起こる障害も大切だと考えられています。
仙腸関節の動きが悪くなったり(可動性低下)、関節が固まったような状態(ブロック)になったりしたときに、仙腸関節マニピュレーション(sacroiliac joint manipulation、理学療法士などが手を使って関節の動きを調整する治療)が有効とされてきました。
ただし、実際の診療現場に近い条件で、多くの患者さんをまとめて調べたデータは、まだあまり多くない状況でした。そこで、この研究では、仙腸関節マニピュレーションがどの程度痛みや生活への支障に影響するのかを、より現実に近い形で確かめることを目的としました。
調査の方法(対象など)
この研究は、単施設前向き観察コホート研究(たんしせつ ぜんぽうき かんさつコホート研究、英語名:single-center prospective observational cohort study)という方法で行われました。
1つの医療機関で、これから先の経過を追いかける形で、同じ条件の患者さんの集まり(コホート)を観察する研究です。
対象は、仙腸関節障害(sacroiliac joint dysfunction、仙腸関節に由来する痛みや機能低下の総称)が原因と考えられる腰仙部痛(ようせんぶつう:腰からおしり付近の痛み)または下肢放散痛(かしほうさんつう:おしりから足にかけて広がる痛み)を持つ成人の患者さん、連続100例でした。「連続」というのは、条件を満たした患者さんを順番に漏れなく登録した、という意味です。
診断は、CT(シーティー:Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)またはMRI(エムアールアイ:Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像)と、複数の仙腸関節誘発テスト(sacroiliac joint provocation tests、仙腸関節に負荷をかけて痛みが再現されるかをみる徒手検査)を組み合わせて行いました。
そのうえで、同じ理学療法士(physical therapist、運動療法や手技療法を専門とする国家資格者)が、7日ごと(1週間おき)に、最大3回まで、標準化された仙腸関節マニピュレーション(手順を統一した関節調整の手技)を実施しました。
研究の結果
痛みの強さは、NRS(Numerical Rating Scale、数値評価スケール)という方法で評価しました。これは、痛みを0〜10の11段階で自己申告してもらう方法で、0が「痛みなし」、10が「今までで一番強い痛み」という目安です。
治療前(ベースライン)のNRSの中央値は8と、かなり強い痛みでしたが、1回目のマニピュレーションのあとには中央値1まで下がりました。2回目と3回目のあとには、いずれも中央値0まで低下しました。
その後、3か月後の時点でも、NRSは0〜2の範囲を保っており、痛みがかなり弱い状態が続いていたことが示されています。
また、日常生活でどのくらい困っているかを示す指標として、ODI(Oswestry Disability Index、オズウェストリー障害指数)を用いました。これは、腰痛による生活の支障度を0〜100点で評価する質問票で、点数が高いほど生活への影響が大きいことを意味します。
ODIは治療前の30から、3か月後には7まで改善していました。ODIにはいくつかの項目(ドメイン:痛みの強さ、歩行、座る・立つ・持ち上げる動作など)が含まれますが、そのすべての項目で、統計学的に有意な変化(偶然とは考えにくい変化)が認められました。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究の結果から、仙腸関節マニピュレーション(仙腸関節の動きを調整する手技療法)によって、腰痛と下肢への放散痛、そしてそれに伴う日常生活の支障が、比較的短い期間で大きく改善する可能性が示されました。
さらに、その効果は少なくとも3か月間は続いている可能性がある、という結果でした。ただし、「可能性が示唆される」という段階であり、すべての方に同じような効果が出るとまでは言い切れない点には注意が必要です。
実際の診察ではどう考えるか
実際の診察では、仙腸関節誘発テスト(仙腸関節に負荷をかけて痛みが出るかをみる検査)を組み合わせて行い、仙腸関節が痛みの主な原因かどうかを見分ける「トリアージ(triage、ふるい分け)」が大切になります。
この研究のように、適切にトリアージされた仙腸関節障害の患者さんでは、少ない回数の仙腸関節マニピュレーションでも、痛みや日常生活の支障が大きく改善することが期待できる可能性があります。
一方で、この研究は観察研究(治療の有無を研究者がランダムに決めていない研究)であり、「仙腸関節マニピュレーションが原因で、必ずこの効果が出た」とまでは断定できません。
因果関係をよりはっきりさせるには、無作為化比較試験(randomized controlled trial、患者さんをくじ引きのようにグループ分けして治療法を比較する研究)による検証が今後必要とされています。
参考文献
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Sacroiliac joint manipulation for low back and radicular pain: outcomes in a 100-patient single-center cohort.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42294847/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















