この記事の要点
- 日本語タイトル:VRリハで筋腱振動を加えると動きの模倣は本当に向上するか?
- 英語タイトル:Proprioceptive-augmented virtual reality influences the kinematic properties of movement imitation.
ここで取り上げる内容は、リハビリテーションや整形外科の診察の場面でも関わりのあるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、できるだけ日常の言葉に置きかえながら、ゆっくり説明していきます。
研究の背景・目的
背景:バーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR)は、ゴーグルなどを使って仮想空間に入り込んだように感じる技術で、リハビリの世界でも使われ始めています。
VRでは主に「目から入る情報(視覚情報)」を使って、見本の動きをまねしてもらいますが、それだけでどこまで正確に動きをまねできるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。
そこで、この研究では「筋腱振動(きんけんしんどう)」という刺激を使いました。筋腱振動とは、筋肉と腱(筋肉と骨をつなぐ組織)のあたりに小さな振動を与えて、「自分の手足がどの位置にあって、どう動いているか」を感じる仕組み=固有感覚(Proprioception:自分の体の位置や動きを感じる感覚)を強める方法です。
この固有感覚の刺激をVRに追加すると、動きのまねの正確さがどのくらい変わるのかを調べることが、この研究の目的でした。
調査の方法(対象など)
対象と方法:この研究では、若くて健康な方23名を対象にしました。
同じ人が条件を変えて両方のやり方を体験する「単群クロスオーバー実験」という方法で行われました。
1つ目は、ふつうのVRだけを使う条件です。
2つ目は、VRに加えて、80ヘルツ(80Hz:1秒間に80回の振動)の筋腱振動を与える条件で、研究ではPAR(Proprioceptive-Augmented Reality:固有感覚を追加したVR)と呼んでいます。
参加者には、前腕(肘から手首までの部分)を曲げ伸ばしする動きを、VRの中の見本を見ながらまねしてもらいました。
そのときに、「どれくらい見本と同じ速さで動けたか」を表す速度再現誤差(見本の速度と自分の動きの速度のずれ)と、「手の動きの軌道(通った道筋)がどれくらい見本と違うか」を表す軌道RMSE(Root Mean Square Error:軌道のずれを数値化したもの)を比べて評価しました。
研究の結果
結果:まず、「OFFLINE模倣」というやり方では、見本の動きを一度見てから、その後で自分だけでまねをする方法を指します。
このOFFLINE模倣では、PAR条件(VRに筋腱振動を加えた条件)のほうが、VRだけの条件と比べて、平均速度と最大速度の再現誤差が小さくなりました。つまり、見本と同じ速さで動こうとしたときのずれが少なくなり、速さのまねのしやすさが高まったと考えられます。
一方で、手の動きの軌道のずれを表す軌道RMSEについては、2つの条件のあいだで、はっきりした差は見つかりませんでした。
次に、「ONLINE模倣」という、見本の動きを見ながら同時にまねをする方法では、PAR条件のほうが、速度再現誤差も軌道RMSEも大きくなりました。つまり、速さのずれも、動きの軌道の乱れも増える傾向がみられ、動きがやや不安定になる方向に働いていたと考えられます。
結論:今回の研究でわかったこと
若くて健康な方を対象とした今回の研究では、VRに筋腱振動を加えたPARを使うと、OFFLINE模倣(見本を見たあとで自分だけでまねをするやり方)において、動きの速さの再現誤差が小さくなることが示されました。
このことから、PARを使うと、自分の体が自分のものであると感じる感覚=身体所有感(Sense of Ownership)や、「自分が自分の意思で動かしている」という感覚=エージェンシー(Sense of Agency)が高まる可能性があると考えられています。
実際の診察ではどう考えるか
固有感覚の刺激を組み合わせたVRリハビリでは、「見本を見て、感覚の刺激も受けたあとで、刺激を止めてから動きをまねしてもらうOFFLINE練習」のほうが、動きの速さをそろえるという点では有利になる可能性があります。
一方で、筋腱振動の刺激をかけながら、見本を見て同時にまねをするONLINE練習を行う場合には、動きの軌道が乱れやすくなる可能性があるため、その点に注意して使い方を考える必要があると考えられます。
参考文献
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Proprioceptive-augmented virtual reality influences the kinematic properties of movement imitation.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42321821/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















