この記事の要点
- 日本語タイトル:慢性疼痛に対する高価値理学療法の普及を妨げる理学療法士関連要因は何か?
- 英語タイトル:Physiotherapist-related barriers and enablers to the implementation of high-value physiotherapy for chronic pain: a scoping review and narrative synthesis of 37 studies.
ここで取り上げる内容は、リハビリテーション(身体機能の回復を目指す治療)や整形外科の外来で、日常的によく問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、そのつど「英語の正式名称」と「日本語での意味」をできるだけていねいに説明しながらお話しします。
研究の背景・目的
「慢性疼痛(まんせいとうつう)」とは、痛みが3か月以上続く状態を指すことが多く、世界中で大きな健康問題とされています。代表的なものとして「慢性腰痛(長く続く腰の痛み)」や「変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう:関節の軟骨がすり減ることで起こる痛みやこわばり)」があります。
こうした慢性疼痛に対しては、「高価値理学療法(こうかちりがくりょうほう)」と呼ばれる、科学的な根拠があり、効果と安全性のバランスがよい理学療法、たとえば「運動療法(うんどうりょうほう:筋力トレーニングやストレッチなどの運動を使った治療)」が有効とされています。
一方で、効果がはっきりしなかったり、費用や手間に見合わないと考えられる「低価値な治療」が、今でも多く行われている現状もあります。
この研究では、なぜ高価値理学療法が広まりにくいのか、とくに「理学療法士(りがくりょうほうし:運動療法などを専門に行う国家資格のあるリハビリ専門職)」側の要因に注目して調べることを目的としています。
調査の方法(対象など)
研究者たちは、医学論文を集めた6つの大きなデータベース(医学情報を検索するための専門的なデータの集まり)を、決まった手順にしたがって広く検索しました。
その中から、「慢性疼痛の患者さんに対して、高価値理学療法を実践しようとする際に、理学療法士にどんな『障壁(しょうへき:じゃまになる要因)』や『促進因子(そくしんいんし:うまく進めるのを助ける要因)』があるか」を報告している研究を選び出しました。
最終的に37本の研究が条件を満たし、分析の対象となりました。
分析には「行動変容理論(こうどうへんようりろん)に基づく Theoretical Domains Framework(セオレティカル・ドメインズ・フレームワーク:理論的領域枠組み)」という考え方が使われました。これは、人の行動が変わる・変わらない理由を、「知識」「技術」「環境」「信念」などいくつかの領域に分けて整理するための理論的な枠組みです。
研究の結果
37本の研究をまとめて検討したところ、慢性腰痛や変形性関節症に対して高価値理学療法を行ううえでの「障壁」は、「Theoretical Domains Framework(理論的領域枠組み)」の少なくとも8つの領域にまたがって見られることが分かりました。
具体的には、理学療法士の「知識(どんな治療が有効かを知っているか)」や「スキル(実際にその治療を行う技術)」が十分でないこと、診療時間やスタッフ数などの「環境資源(かんきょうしげん:時間・人手・設備など)」が限られていることが、よく報告されていました。
また、「徒手療法(としゅりょうほう:手で関節や筋肉をもんだり動かしたりする治療)」に対する、これまでの慣れや信頼が強く残っていること、患者さんや一緒に働く医療スタッフから「こうしてほしい」という期待があることも、運動療法中心の高価値理学療法を取り入れるうえでの障壁として繰り返し挙げられていました。
一方で、理学療法士が十分な研修(けんしゅう:知識や技術を学ぶための教育)を受けられることや、医療機関として組織的に支援する体制があることは、高価値理学療法を進める「促進因子」として働いていることも示されました。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究から、慢性疼痛に対して高価値理学療法を実践していくには、「知識」「スキル」「環境資源」「自分の役割に対する意識」「治療の結果に対する信念」など、いくつもの面で障壁が存在していることが示されました。
つまり、理学療法士一人ひとりの努力だけで解決するというよりは、教育の機会をしっかり確保することと、診療体制(時間の取り方、人員配置、院内の方針など)を整えることの両方を同時に考えていく視点が大切だと考えられます。
実際の診察ではどう考えるか
実際の診療の場で、慢性疼痛に対して高価値理学療法を根づかせていくには、理学療法士などセラピストへの教育を充実させることに加えて、診療報酬(しんりょうほうしゅう:医療行為に対して支払われる公的な費用の仕組み)や人員配置など、医療システム全体の整備を同時に進めていく必要があると考えられます。
また、「運動を中心とした治療方針」を、医師・理学療法士・看護師など多職種で共有し、患者さんに対しても一貫した説明を行いながら、痛みの仕組みや治療の意味をていねいにお伝えしていくことが重要だとされています。
参考文献
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Physiotherapist-related barriers and enablers to the implementation of high-value physiotherapy for chronic pain: a scoping review and narrative synthesis of 37 studies.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42248214/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















