肩インピンジメント症候群に関節モビライゼーション追加は有効か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:肩インピンジメント症候群に関節モビライゼーション追加は有効か?
  • 英語タイトル:Clinical efficacy of joint mobilization for shoulder impingement syndrome: a systematic review and meta-analysis.

このテーマは、リハビリテーション(Rehabilitation、けがや病気のあとに体の機能を取り戻すための訓練)や整形外科(Orthopedics、骨や関節・筋肉など運動器を扱う診療科)の現場で、よく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の診察室でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

肩インピンジメント症候群(Shoulder Impingement Syndrome、肩を動かしたときに骨と筋肉・腱などがぶつかりやすくなり、痛みや動かしにくさが出る状態)では、理学療法(Physical Therapy、運動や手技などで体の機能回復を目指す治療)と一緒に、関節モビライゼーション(Joint Mobilization、関節をセラピストが手でゆっくり動かして、固さや痛みをやわらげる手技療法)が広く行われています。
ただし、この関節モビライゼーションが、どのくらい痛みや動き、日常生活の機能に効果があるのかを、数字でしっかりまとめて調べた研究(システマティックレビューとメタアナリシス:Systematic Review and Meta-analysis、複数の研究結果を集めて統計的にまとめる方法)は多くありません。
そこでこの研究では、肩の痛みの強さ、肩の動く範囲(可動域)、腕や肩の機能がどの程度よくなるのかを、できるだけ客観的に明らかにすることを目的としています。

調査の方法(対象など)

この研究では、肩インピンジメント症候群の患者さんを対象にしたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial、ランダム化比較試験:患者さんをいくつかのグループに無作為に分けて、治療法を比べる研究)だけを集めています。
比較しているのは、従来の理学療法だけを行ったグループと、理学療法に関節モビライゼーションを追加したグループ、見せかけだけで実際には効果のないモビライゼーションを行うグループ(シャムモビライゼーション群)、そして運動療法(Exercise Therapy、筋力トレーニングやストレッチなどの運動を中心とした治療)を追加したグループです。
これらの研究をまとめて検討するシステマティックレビューとメタアナリシスの方法で、治療効果を比較しています。

研究の結果

理学療法に関節モビライゼーションを追加すると、痛みのスコア(患者さんの自己申告による痛みの点数)が、おおよそ1〜2ポイントほど低くなっていました。
また、肩関節の自動可動域(Active Range of Motion、自分の力で動かしたときの肩の動く範囲)は、約10〜15度ほど広がっていました。
さらに、DASHスコア(Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand、腕・肩・手の使いにくさを点数化した質問票)やConstant-Murleyスコア(Constant-Murley Score、肩の痛み・動き・筋力・日常生活動作を総合的に評価する指標)も、わずかではありますが、よくなる方向の変化がみられる傾向でした。
一方で、理学療法に運動療法をしっかり組み合わせて行っている場合には、関節モビライゼーションをさらに加えても、主要な評価項目(痛みや可動域など)で、はっきりとした「上乗せ効果」があるとはいえない結果でした。

結論:今回の研究でわかったこと

肩インピンジメント症候群では、理学療法に関節モビライゼーションを加えることで、短い期間のうちに、痛みと肩の動く範囲がよくなる可能性が高いと考えられます。
ただし、運動療法を十分に行っている場合には、その上にさらに関節モビライゼーションを足しても、効果の上乗せは限られていると考えられます。
そのため、痛みがとくに強い初期の段階や、肩の動きの制限が目立つ患者さんに対して、短期間の補助的な方法として使う位置づけが、現時点では妥当と考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

痛みが強く、肩の動きの制限がはっきりしている肩インピンジメント症候群の患者さんでは、まず関節モビライゼーションを短期間の補助的な治療として理学療法に組み合わせる、という使い方が現実的と考えられます。
そのうえで、痛みが少し落ち着き、動きが出てきた段階からは、運動療法を中心にして、肩や周りの筋肉の機能を維持・強化していくことが大切になります。
関節モビライゼーションは、あくまで一つの手段であり、どんな場合にも大きな効果が出る「万能な治療」ではない点を、あらかじめ理解しておくことが重要です。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

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