この記事の要点
- 日本語タイトル:ACL再建後リハに自己学習型心理サポート追加で復帰率は上がるか?
- 英語タイトル:Adding Self-directed Psychological Support to Usual Rehabilitation Following Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Did Not Increase Return-to-Sport Rates at 12 Months. Results From the BAck iN the Game (BANG) Randomized Controlled Trial.
ここでは、膝の前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい:Anterior Cruciate Ligament/ACL)が切れて手術を受けたあと、スポーツに復帰できるかどうかという話題を取り上げています。
ふだんのリハビリや整形外科の診察でもよく出てくるテーマなので、専門用語はできるだけかみくだいてお話しします。
研究の背景・目的
前十字靱帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)は、膝の中で太ももとすねの骨をつなぎ、膝がぐらつかないように支えている大事な靱帯です。
ACLが切れて「ACL再建術(さいけんじゅつ:切れたACLを腱などで作り直す手術)」を受けたあと、もとのレベルでスポーツに戻れる人は、全体の3〜4割ほどとされています。
その理由のひとつとして、「またケガをするのではないか」という不安や恐怖など、心の面(心理的要因)が大きなハードルになっていると考えられています。
この研究では、そういった心理的な不安に対して、自己学習型の心理サポートをリハビリに追加すると、スポーツへの復帰率が上がるのかどうかを調べることを目的としました。
調査の方法(対象など)
対象となったのは、15〜30歳の若いスポーツ選手161名で、方向転換や急なストップ・スタートが多い「ピボットスポーツ(pivot sports:サッカー、バスケットボール、ハンドボールなど、膝にひねりがかかりやすい競技)」をしている人たちです。
この人たちを2つのグループに分けました。
1つは、通常どおりのリハビリに加えて「BANG(BAck iN the Game:若手選手の復帰を支援する自己学習型オンライン心理プログラム)」を追加したグループ、もう1つは通常のケアだけを行うグループです。
どちらのグループに入るかは、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial/RCT:くじ引きのように無作為に分けて、公平に効果を比べる研究方法)で決められました。
研究の結果
手術から12か月後に、もとのレベルでスポーツに復帰できていた人の割合は、どちらのグループも36%で同じでした。
また、不安や自信などの心理面の指標や、膝の機能(動きや安定性など)に関する評価、さらに手術から24か月(2年)までに新しく起こったACL損傷の数についても、2つのグループのあいだで明らかな差はみられませんでした。
この結果から、今回のような一律に同じ内容を提供するオンラインの心理介入を、通常のリハビリに上乗せしても、はっきりとした追加の効果は示されなかったと考えられます。
結論:今回の研究でわかったこと
自己学習型のオンライン心理サポートを、通常のリハビリテーション(rehabilitation:機能回復のための訓練や治療)に追加しても、ACL再建術から1年後のスポーツ復帰率は、リハビリだけの場合と変わらない可能性が高い、という結果でした。
つまり、この研究の範囲では、「自己学習型オンライン心理サポートを足せば、必ず復帰率が上がる」とまでは言えないと考えられます。
実際の診察ではどう考えるか
ACL再建術のあとにスポーツ復帰を目指すときには、まずは標準的なリハビリの内容や質をしっかり確保することが大切だと考えられます。
そのうえで、不安の強さや性格、競技レベルなど、その人ごとの状況に合わせた心理的なサポートの方法を一緒に考えていくことが重要になります。
今回の研究で用いられたような、すべての人に同じ内容を提供するオンライン自己学習型の認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy/CBT:考え方や行動のパターンを見直す心理療法)だけを追加すれば十分、という考え方には、あまり期待をしすぎないほうがよいと受け止められます。
参考文献
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Adding Self-directed Psychological Support to Usual Rehabilitation Following Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Did Not Increase Return-to-Sport Rates at 12 Months. Results From the BAck iN the Game (BANG) Randomized Controlled Trial.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42063300/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















