この記事の要点
- 日本語タイトル:人工膝関節置換術後の運動遵守は健康信念でどれほど変化するか?
- 英語タイトル:Influence of patients’ health beliefs on rehabilitation exercise adherence after knee replacement: the mediating role of exercise psychological needs satisfaction.
ここで取り上げる内容は、人工膝関節の手術後に行うリハビリについてです。整形外科やリハビリテーション科の外来で、日常的によく問題になるテーマです。専門的な話も出てきますが、できるだけ日常の言葉で、ゆっくりかみくだいてお伝えしていきます。
研究の背景・目的
「TKA」とは「Total Knee Arthroplasty(トータル・ニー・アーソロプラスティ)」の略で、日本語では「人工膝関節全置換術」と呼ばれる手術です。変形性膝関節症などで痛みが強いときに、傷んだ膝の関節を人工の関節に入れ替える手術です。
このTKAのあとに行うリハビリテーション運動は、膝の曲げ伸ばしや歩く力などの「機能回復」にとって欠かせないものとされています。ただ、入院中はできていても、家に帰ってから同じように運動を続けることが、多くの患者さんにとって大きな課題になっているという現状があります。
この研究では、「なぜ家で運動を続けるのが難しいのか」「どんな考え方や気持ちが、運動を続ける力に関係しているのか」を明らかにすることを目的としています。
調査の方法(対象など)
この研究では、TKA(人工膝関節全置換術)を受けた患者さん316人を対象に調査が行われました。患者さんがどのくらいリハビリ運動を守って行っているかを調べるために、「EAQ(Exercise Adherence Questionnaire:運動遵守質問票)」という、運動をどれだけ続けられているかを評価するための質問票が使われました。
また、「SF-HBMS(Short-Form Health Belief Model Scale:短縮版ヘルスビリーフモデル尺度)」という、健康に関する考え方や信念(健康信念)を測るための質問票も用いられました。健康信念とは、「この病気は自分にとってどれくらい重大か」「治療や運動は本当に効果があるのか」「自分にできそうかどうか」といった、健康や病気に対する受け止め方のことです。
さらに、「PNSES(Psychological Needs Satisfaction in Exercise Scale:運動における心理的ニーズ充足尺度)」という、運動をするうえでの心理的な欲求がどれくらい満たされているかを測る質問票も使われました。ここでいう心理的ニーズとは、「自分で選んで運動していると感じられること」「自分にもできるという有能感」「周りから支えられていると感じること」など、運動を続けるうえでの心の満足感を指します。
これら3つの質問票を用いて、運動の続けやすさ(運動遵守)、健康信念、運動に関する心理的なニーズを、ある一時点でまとめて評価する「横断研究」という方法で調べています。
研究の結果
EAQ(運動遵守質問票)で評価したところ、TKA後のリハビリ運動の守られ方は、全体として「中くらいの程度」と判断されました。つまり、まったくできていないわけではないものの、十分とは言い切れないレベルの患者さんが多いという結果です。
さらに、健康信念(SF-HBMSで測定)と、運動に関する心理的ニーズの満たされ具合(PNSESで測定)の両方が、運動をどれだけ続けられているか(運動遵守)と「中等度以上の強さで、同じ方向に変化する関係(正の相関)」を示していました。これは、健康に対する考え方が前向きであるほど、また運動に対する心理的な満足感が高いほど、リハビリ運動を続けやすい傾向があることを意味します。
さらに「媒介分析」という統計的な方法で詳しく調べたところ、健康信念が運動遵守に与える全体的な影響のうち、およそ25%、つまり約4分の1が、「運動に関する心理的ニーズがどれくらい満たされているか」を通じて間接的に働いている、という結果が示されました。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究から、TKA(人工膝関節全置換術)のあとに行うリハビリ運動について、多くの患者さんでは運動の守られ方が「中くらい」で、十分とは言えない場合が少なくないことが示されました。
一方で、健康に対する考え方や信念(健康信念)が高い患者さんほど、リハビリ運動をきちんと続けられている傾向がみられました。そして、その影響のうち約4分の1は、「運動をするうえでの心理的なニーズがどれくらい満たされているか」を通して現れている可能性があると考えられました。つまり、健康に対して前向きな考えを持つことに加えて、「自分で選んで運動している感覚」や「自分にもできるという自信」「周囲からの支え」といった心理的な満足感が、運動を続けるうえで一部の役割を果たしている可能性がある、という内容です。
実際の診察ではどう考えるか
実際にTKA(人工膝関節全置換術)のあとにリハビリを進めるときには、「この運動を1日何回やってください」といった運動量の指示だけでは十分でない場合があると考えられます。
患者さんご自身が、「なぜこの運動が自分の体にとって大切なのか」「続けることでどんな変化が期待できるのか」を理解し、健康に対して前向きな考え方(健康信念)を持てるようにお話しすることが、ひとつの工夫になりえます。
あわせて、「自分で選んで取り組めていると感じられる説明」「できたことを一緒に確認して自信につなげる声かけ」「家族や医療スタッフからの支えを感じられる関わり」など、運動に関する心理的なニーズが少しでも満たされるような説明や関わり方を、意識して診療の中に取り入れていくことが重要だと考えられます。
参考文献
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Influence of patients’ health beliefs on rehabilitation exercise adherence after knee replacement: the mediating role of exercise psychological needs satisfaction.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42218228/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















