慢性運動時関節痛に対しデジタル理学療法支援は通常理学療法より実用的に導入可能か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:慢性運動時関節痛に対しデジタル理学療法支援は通常理学療法より実用的に導入可能か?
  • 英語タイトル:TRAK MSK: a randomised external feasibility trial and process evaluation of a digital physiotherapy supported self-management programme for people with musculoskeletal pain.

ここで取り上げるのは、長く続く関節の痛みがあって、動くと痛みが出る方のお話です。
ふだん整形外科やリハビリテーション科で行っている「通院して受けるリハビリ」に、インターネットなどを使った「デジタルの支援」を組み合わせるとどうか、という内容を、できるだけわかりやすく説明していきます。

目次

研究の背景・目的

慢性運動時関節痛とは、「動いたときに出る関節の痛みが長く続いている状態」のことです。
このような状態では、痛みそのものだけでなく、「体を動かす量」が減ったり、「自分で病気をコントロールできるという自信(自己管理への自信)」が下がりやすいとされています。
病院やクリニックに通って受ける理学療法(Physiotherapy:関節や筋肉の動きを改善するための運動療法や物理療法など)だけでは、効果がある程度のところで頭打ちになってしまうことがあり、そのため、インターネットや専用サイトなどを使った「デジタル支援」を組み合わせる必要性が高まっている、という考えからこの研究が行われました。

調査の方法(対象など)

この研究は、イギリスの複数の医療機関で行われた「ランダム化比較外部フィージビリティ試験(randomised external feasibility trial)」という種類の研究です。
「ランダム化比較試験」とは、患者さんをくじ引きのような方法でグループに分けて、どちらの治療がどうかを公平に比べる方法です。
「フィージビリティ試験(feasibility trial)」とは、本格的な大きな研究の前に、「このやり方が現実的に実行できるかどうか」を確かめるための試験という意味です。
この研究では、慢性の関節痛がある患者さんを、
・TRAK MSK群(TRAK MSKというデジタル支援付きのプログラムを受けるグループ)
・通常理学療法群(ふだん通りの理学療法を受けるグループ)
の2つに分けました。
そして、16週間にわたってオンラインでの理学療法コーチング(インターネットを通じた運動や自己管理の指導)と、専用ウェブサイトの利用が、実際に続けられるかどうかを調べました。

研究の結果

TRAK MSK群と通常ケア群のどちらのグループでも、約6割の患者さんが16週間後のフォローアップ(経過観察)まで参加を続けていました。
患者さんと理学療法士(Physiotherapist:運動療法などを専門とするリハビリの担当者)は、このTRAK MSKによる介入について、「受け入れられる内容であり、今後に期待できる」と評価していました。
痛みの程度、体を動かす量(活動量)、自分で病気を管理する力(自己管理)、自分で記入する生活の質(自記式QOL:Quality of Life=生活の質を自分で評価するもの)については、TRAK MSK群で一貫して「良くなる方向の変化」がみられました。

結論:今回の研究でわかったこと

TRAK MSKは、通常の理学療法と比べても、患者さんの登録やその後の経過を追っていくことが、現実的な範囲で行えるプログラムであると考えられました。
また、痛み、体の動きやすさ・活動性、自己管理の力、生活の質(QOL:Quality of Life)のいずれも、TRAK MSKを使ったグループで「良くなる方向の変化」がみられました。
このことから、慢性的な筋骨格系の痛み(Musculoskeletal pain:筋肉や関節、骨などに関係する痛み)に対して、デジタル支援を取り入れることには意味がある可能性が示された、という結論になっています。

実際の診察ではどう考えるか

今回の研究は、参加した患者さんの数がまだ多くない「外部フィージビリティ試験」であり、治療の効果を最終的に証明する前の段階の研究です。
それでも、慢性的な筋骨格系の痛み(MSK痛)を持つ患者さんに対して、デジタル支援と「セルフマネジメント教育(self-management:自分で病気と付き合う方法を学ぶ教育)」を、できるだけ早い時期から組み込んだ診療の形を考えていくことが大切である、という点を示していると考えられます。


参考文献

  • TRAK MSK: a randomised external feasibility trial and process evaluation of a digital physiotherapy supported self-management programme for people with musculoskeletal pain.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42399904/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

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