人工膝関節置換術後、高齢者の転倒へのこわさは3か月でどう変化する?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:人工膝関節置換術後、高齢者の転倒へのこわさは3か月でどう変化する?
  • 英語タイトル:Latent Classes of Fear of Falling Trajectories and Associated Factors Among Older Patients After Total Knee Arthroplasty: A Prospective Longitudinal Study.

ここで取り上げる内容は、リハビリテーションや整形外科の外来で、実際によく問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、そのつど「英語の正式名称」と「日本語での意味」を説明しながら、できるだけ日常のことばでお話ししていきます。

目次

研究の背景・目的

「TKA(Total Knee Arthroplasty、トータル・ニー・アーソロプラスティ)」とは、「人工膝関節置換術」という手術で、傷んだ膝の関節を人工の関節に入れ替える治療です。高齢の方がこのTKAを受けたあとには、実際に転んでしまう「転倒」そのものだけでなく、「転んでしまうのではないかというこわさ(Fear of Falling、フィア・オブ・フォーリング)」が強くなることがあります。この転倒へのこわさが強いと、歩く練習やリハビリテーションへの参加をためらってしまうことがあります。
ただし、この「転倒へのこわさ」が手術後3か月のあいだにどのように変化していくのか、どんなパターンがあるのか、また、こわさが長く続きやすい人にはどのような特徴があるのかについては、まだ十分にはわかっていませんでした。そこで、この点を詳しく調べることが、この研究の目的でした。

調査の方法(対象など)

中国にある「三次医療機関(高度な専門治療を行う大きな病院)」でTKA(人工膝関節置換術)を受けた高齢の患者さん315人を、あらかじめ計画を立てて前向きに登録しました。そのうち、最終的に270人のデータを解析に使いました。
手術の前に、年齢や持病などの基本的な情報を集めました。手術のあとには、1日後、1週間後、1か月後、3か月後のタイミングで、「転倒へのこわさ」や「痛みの強さ」、それに「心理的な状態(気持ちの面の指標)」を、それぞれ決まった方法で評価しました。

研究の結果

「FOF(Fear of Falling、フィア・オブ・フォーリング)」とは、「転倒へのこわさ」を指す言葉です。全体としてみると、この転倒へのこわさは、手術後3か月のあいだに少しずつ弱くなる傾向がありました。ただし、すべての人が同じように変化するわけではなく、次の3つのグループに分かれました。
①「高レベルでゆっくり低下群」:最初のこわさが強く、その後もゆっくりしか下がらないグループで、全体の26.7%でした。
②「低レベル安定群」:もともとこわさがあまり強くなく、そのまま低い状態が続いたグループで、18.9%でした。
③「中等度で一度上昇後に低下群」:こわさが中くらいの強さで始まり、いったん強くなってから、その後に下がっていくグループで、54.4%といちばん多いパターンでした。
このうち、こわさが高いままゆっくりしか下がらない「高レベル群」では、いくつかの特徴が関係していました。具体的には、「年齢が高いこと」、
「PPQ(Positive Psychological Questionnaire、ポジティブ心理尺度)」という、前向きな気持ちや楽観性などを測る質問票の点数が低いこと、
「DDI(Distress Disclosure Index、ディストレス・ディスクロージャー・インデックス、苦悩開示尺度)」という、自分のつらさや悩みを人に打ち明けるかどうかを測る質問票の点数が低いこと、
「VAS(Visual Analog Scale、ビジュアル・アナログ・スケール、視覚的アナログ尺度)」という、痛みの強さを0〜10などの目盛りで表す評価で、痛みが強い(点数が高い)こと、
これらが、高いこわさと関連していました。

結論:今回の研究でわかったこと

TKA(人工膝関節置換術)のあと3か月間の「転倒へのこわさ」は、みな同じではなく、先ほどの3つのパターンに分かれることが示されました。そのなかでも、年齢が高い方、痛みが強い方、「PPQ(ポジティブ心理尺度)」で前向きな気持ちが低めの方では、転倒へのこわさが高いまま続きやすい傾向がありました。
この結果から、手術のあと早い時期から、「年齢」「痛みの強さ」「心理状態(前向きさなど)」をきちんと評価して、こわさが高止まりしやすい「高リスク」の方を早めに見つけることが大切だと考えられます。そして、そのような方には、個々の状況に合わせた支援や関わり方を行うことの重要性が示唆されています。

実際の診察ではどう考えるか

TKA(人工膝関節置換術)のあと3か月たった時点での「FOF(転倒へのこわさ)」は、人によってかなり違いがあり、一様ではありません。とくに、年齢が高い方、痛みが強い方、「PPQ(ポジティブ心理尺度)」で前向きな気持ちが低い方、そして「DDI(苦悩開示尺度)」で自分のつらさや不安を人に打ち明けにくい方では、転倒へのこわさが高いまま残りやすい傾向があります。
そのため、これまでの転倒歴だけを見るのではなく、「気持ちの状態」や「家族などからの支援の状況」も含めて、早い段階でチェック(スクリーニング)することが大切になります。そして、その結果に応じて、一人ひとりに合った形での声かけやリハビリの進め方など、個別の介入を行うことが重要だと考えられます。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

  • かわな いりなか 八事エリア
  • 昭和区 瑞穂区 千種区 天白区

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