この記事の要点
- 日本語タイトル:高校野球投手の肩インピンジメントにEMG併用は有効か?
- 英語タイトル:The Effect of Scapular-Focused Exercise With or Without Electromyography Biofeedback in High-School Baseball Pitchers With Shoulder Impingement Syndrome: A Randomized Controlled Trial.
ここでは、肩の痛みでよく問題になる「肩インピンジメント(Shoulder Impingement Syndrome:肩の関節の中で腱や筋肉などがこすれて痛みが出る状態)」について、高校の野球のピッチャーさんを対象にした研究を、できるだけわかりやすくお話しします。リハビリテーション(Rehabilitation:機能回復のための訓練)や整形外科の診察で、日常的によく出てくる内容ですので、専門用語は一つずつ説明しながら進めていきます。
研究の背景・目的
高校野球の投手に多い肩インピンジメントでは、「肩甲骨(Scapula:背中側で腕の骨とつながる平たい骨)」の動きのコントロールがうまくいかないことが、痛みの原因の一つと考えられています。投球動作では、腕だけでなく肩甲骨も一緒にスムーズに動くことが大切ですが、この肩甲骨の「運動制御不良(Motor Control Impairment:自分の思った通りにうまく動かせない状態)」があると、肩の関節の中で組織がぶつかりやすくなり、インピンジメントが起こりやすくなるとされています。この研究では、その肩甲骨の動きを整えるための運動に、ある機械を使ったほうがよいかどうかを調べることを目的としています。
調査の方法(対象など)
この研究では、高校野球の投手を対象に、「肩甲骨フォーカスエクササイズ(Scapular-Focused Exercise:肩甲骨の動きを整えることを目的とした運動)」だけを行うグループと、それに「EMG(Electromyography:筋電図検査。筋肉がどれくらい働いているかを電気信号として測る方法)」を組み合わせて行うグループを比べました。EMGを使うと、筋肉の活動の強さを目で見える形でフィードバック(Biofeedback:自分の体の状態をその場で確認できる仕組み)として患者さんに伝えることができます。この2つの方法でリハビリを行い、どのような違いが出るかを調べた介入研究(Intervention Study:実際に治療や運動を行って、その前後の変化を比べる研究)です。
研究の結果
EMGを併用したグループでは、肩を90度まで挙げたとき(腕を横から肩の高さまで上げたとき)の「中部僧帽筋(Middle Trapezius Muscle:肩甲骨を安定させる背中の筋肉の一部)」の活動が、統計的に意味のある範囲で増えていました。また、EMGを使ったグループと使わなかったグループのどちらでも、「肩甲骨まわりの筋肉の活動バランス(どの筋肉がどれくらい働くかのバランス)」や筋力、肩の痛み、肩の機能(動かしやすさや日常生活・スポーツでの使いやすさ)が、いずれも改善しているという結果でした。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究では、EMGを併用すると中部僧帽筋の活動量は増える、つまりその筋肉をより意識して使えるようになることが示されました。一方で、肩の痛みや肩の機能の改善については、EMGを使わずに理学療法士(Physical Therapist:運動療法などで機能回復をサポートする専門職)の指導だけで運動を行った場合でも、ほぼ同じ程度の改善がみられたという結果でした。
実際の診察ではどう考えるか
EMGの機械がある場合には、肩甲骨まわりの筋肉を「再教育(Re-education:正しい使い方を体に覚えさせること)」するうえで、筋肉の働き具合をその場で確認できるので、役に立つと考えられます。ただ、高校生くらいの若い投手では、EMGがなくても、理学療法士がフォームや体の使い方を丁寧に指導しながら肩甲骨フォーカスエクササイズを行うことで、臨床的には十分な効果が期待できる、という結果でした。
参考文献
-
The Effect of Scapular-Focused Exercise With or Without Electromyography Biofeedback in High-School Baseball Pitchers With Shoulder Impingement Syndrome: A Randomized Controlled Trial.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42157602/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















