この記事の要点
- 日本語タイトル:75歳以上TKAではSVアプローチはMPより早期リハに有利か?
- 英語タイトル:Comparison of Subvastus and Medial Parapatellar Approaches in Total Knee Arthroplasty for Patients Aged Over 75 Years: Implications for Postoperative Rehabilitation and Early Mobilization.
ここでは、膝の人工関節の手術(トータルニーアーソロプラスティ:Total Knee Arthroplasty、膝関節全置換術)を受ける高齢の方についてのお話をします。
ふだんの整形外科診療やリハビリテーション(Rehabilitation、機能回復のための訓練)でよく出てくるテーマですので、できるだけ専門用語をかみくだいてお伝えします。
研究の背景・目的
高齢の方が膝の人工関節置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty、膝関節全置換術)を受けたあと、長いあいだベッドで寝たままの状態が続くと、肺炎(肺に炎症が起こる病気)や、深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT、足の深い静脈に血のかたまりができる病気)などの合併症が起こりやすくなるとされています。
そのため、できるだけ早くベッドから起きて動き始めることが大切で、その「動き始めの早さ」には、どのような手術の切り方(手術アプローチ)がよいかが関係すると考えられています。
この研究では、手術の切り方の違いが、高齢の方の早期の動き出しやリハビリの進み方にどのように影響するかを調べることを目的としています。
調査の方法(対象など)
対象となったのは、75歳を超える方で、変形性膝関節症(Osteoarthritis of the Knee、膝の軟骨がすり減って変形してくる病気)のステージIV(進行した重い段階)と診断され、膝関節全置換術(TKA)を受けた60例です。
この方たちを、
・サブバスタスアプローチ(Subvastus approach:太ももの筋肉の下側から入る手術の切り方、以下SV)
・メディアルパラパテラアプローチ(Medial Parapatellar approach:膝のお皿の内側を通る一般的な切り方、以下MP)
の2つのグループに分けました。
そして、
・ストレートレッグレイズ(Straight Leg Raise:SLR、膝を伸ばしたまま足を持ち上げられるようになるまでの日数)
・関節可動域(Range of Motion:ROM、膝がどこまで曲がるか・伸びるか)
・痛みの強さ(Visual Analog Scale:VAS、0~10などの目盛りで痛みを自己評価する方法)
・入院している日数
・出血量
・長く寝ていることに関連した合併症(肺炎や深部静脈血栓症など)
といった項目を、SV群とMP群で比較して調べました。
研究の結果
サブバスタスアプローチ(SV)のグループでは、ストレートレッグレイズ(SLR:膝を伸ばしたまま足を持ち上げる動き)ができるようになるまでの期間が平均約1.7日で、メディアルパラパテラアプローチ(MP)グループの3.4日より早い結果でした。
また、手術後1週間の時点での膝の関節可動域(ROM)は、SV群が平均94度で、MP群の79度より大きく曲げられていました。
痛みの強さを示すVAS(Visual Analog Scale)では、手術後3日目の数値がSV群で4.0、MP群で6.0と、SV群のほうが低い値でした。
さらに、入院日数もSV群が平均5.0日、MP群が6.7日と、SV群のほうが短い傾向がみられました。
これらの結果から、SV群では早い時期の回復において有利な点がみられたと報告されています。
結論:今回の研究でわかったこと
この研究では、75歳以上の方の膝関節全置換術(TKA)において、サブバスタスアプローチ(SV)のほうが、メディアルパラパテラアプローチ(MP)と比べて、ストレートレッグレイズ(SLR)ができるようになるまでの期間や、関節可動域(ROM)の回復が早い傾向がみられました。
また、痛み(VASで評価)もやや軽く、入院期間も短くなる傾向が報告されています。
そのため、SVは、高齢の方が早くベッドから離れて動き始め、リハビリテーションを進めていくうえで、有力な選択肢のひとつとなる可能性があると考えられています。
実際の診察ではどう考えるか
実際の診療では、高齢の方の膝関節全置換術(TKA)でサブバスタスアプローチ(SV)を選ぶことで、早めにベッドから起きて歩き始めたり、リハビリテーションを進めたりしやすくなり、長く寝ていることによる肺炎や深部静脈血栓症などの合併症の予防に役立つ可能性があると考えられます。
一方で、出血しやすさ(出血傾向)や心臓・肺など全身の状態などは人によって異なりますので、どの手術アプローチがよいかは、患者さんそれぞれの体の状態やリスクを踏まえて個別に判断していくことが大切だとされています。
参考文献
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Comparison of Subvastus and Medial Parapatellar Approaches in Total Knee Arthroplasty for Patients Aged Over 75 Years: Implications for Postoperative Rehabilitation and Early Mobilization.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42141711/
※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。



















