高齢者の膝ホームエクササイズに運動支援アプリは遵守率を本当に高めるか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:高齢者の膝ホームエクササイズに運動支援アプリは遵守率を本当に高めるか?
  • 英語タイトル:Effects of an Exercise-Assisting Mobile App (Osteoarthritis-Rehabilitation Assistant [O-RA]) on Rehabilitation Outcomes in Older Adults: Randomized Controlled Parallel Clinical Trial.

ここで取り上げる内容は、リハビリテーション(Rehabilitation:けがや病気のあとに行う機能回復のための訓練)や整形外科(Orthopedics:骨や関節、筋肉など運動器を扱う診療科)の外来で、よく問題になるテーマです。
専門的な医学用語も出てきますが、そのつど「英語の正式名称」と「日本語での意味」を説明しながら、できるだけ日常会話に近い言葉でお話ししていきます。

目次

研究の背景・目的

リハビリテーションの大きな課題のひとつは、「自宅で行う運動(ホームエクササイズ)をどれだけ続けられるか」という点です。
最近は、運動を手助けするスマートフォン用アプリ(Exercise-Assisting Mobile App:運動支援アプリ)や、体の動きをセンサーなどで読み取って画面にフィードバックする仕組み(Motion Analysis Biofeedback:モーション解析バイオフィードバック)が注目されています。
ただし、高齢の方に対して、こうしたアプリや機器が本当に役に立つのかどうかについては、まだ十分な科学的な根拠(エビデンス)がそろっていません。
そこでこの研究では、膝の運動をサポートする専用アプリ「O-RA(Osteoarthritis-Rehabilitation Assistant:変形性膝関節症リハビリテーション支援アシスタント)」が、高齢者のリハビリにどのような効果をもたらすかを調べました。
その際、「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)」という、医療の研究でよく使われる方法を用いて、アプリの効果を検証しました。

調査の方法(対象など)

この研究の対象は、「変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝の軟骨がすり減ることで痛みや変形が出る病気)」がない、60歳以上の高齢者40名でした。
研究の方法は「評価者盲検ランダム化並行群間比較試験(Evaluator-Blinded Randomized Parallel-Group Trial)」という形式です。これは、
・参加者をくじ引きのような方法で2つのグループに分ける(ランダム化)
・2つのグループを同じ期間、並行して比べる(並行群間比較)
・結果を評価する人には、どちらのグループか分からないようにする(評価者盲検)
というやり方で、できるだけ公平に比較するための工夫です。
参加者は、「O-RAアプリを使うグループ」と「通常の口頭や紙での指導だけを受けるグループ」に分けられました。
どちらのグループにも、4種類の膝のエクササイズ(Knee Exercises:膝周りの筋肉を鍛えたり動きをよくしたりする運動)を説明し、そのあと自宅で1週間、毎日行ってもらいました。
そのうえで、
・運動を行った回数
・どれくらい指示どおり続けられたか(コンプライアンス:指示された内容を守る程度)
・運動のやり方がどれくらい正確だったか(正確さ)
といった点を評価しました。

研究の結果

O-RAアプリを使ったグループでは、通常の指導だけを受けたグループと比べて、「運動をどれだけ続けられたか(運動遵守率:運動を指示どおり行った割合)」が統計的に意味のある差をもって低くなっていました。
一方で、エクササイズのやり方の正確さについては、2つのグループのあいだで明らかな違いはみられませんでした。
アプリの使いやすさについての評価では、「難易度」が47点、「満足度」が59点と、全体としてあまり高くない水準でした。
この結果から、アプリの動きが安定していないことや、操作が分かりにくいことが、高齢の方にとっては続けにくさにつながっている可能性があると考えられました。

結論:今回の研究でわかったこと

この研究では、O-RAアプリを使ったグループのほうが、通常の指導だけを受けたグループよりも、運動を続ける割合(運動遵守率)が低くなっていました。また、運動フォームの正確さについては、2つのグループで差はみられませんでした。
つまり、高齢の方にとって、使いにくい運動支援アプリは、かえって運動を続けにくくする可能性があるという結果でした。
そのため、高齢者にアプリを使ってもらうときには、「操作が分かりやすいか」「その人の生活や機器の扱い方のレベルに合っているか(適合)」をよく見きわめてから導入することが大切だと考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

高齢の方の場合、操作が複雑で動作も不安定なアプリを使うと、自宅での運動(ホームエクササイズ)を続ける割合が下がってしまうおそれがあります。
そのため、アプリを勧める前に、その方がスマートフォンやタブレットをどの程度使いこなせるか(デジタルリテラシー:デジタル機器やアプリを理解し使う力)や、実際の操作のしやすさを一緒に確認することが大切です。
場合によっては、紙に印刷した資料を使ったり、ご家族と一緒に外来で運動方法を確認したりといった、よりシンプルな方法を組み合わせることも有用だと考えられます。
このように、その人に合ったやり方を柔軟に選びながら、無理なくホームエクササイズを続けられるよう支えていく姿勢が重要になります。


参考文献

  • Effects of an Exercise-Assisting Mobile App (Osteoarthritis-Rehabilitation Assistant [O-RA]) on Rehabilitation Outcomes in Older Adults: Randomized Controlled Parallel Clinical Trial.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41985075/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 日本整形外科学会認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

  • かわな いりなか 八事エリア
  • 昭和区 瑞穂区 千種区 天白区

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