ACL再建後、筋力LSI85%以上で復帰許可可能か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:ACL再建後、筋力LSI85%以上で復帰許可可能か?
  • 英語タイトル:Relationship Between Knee Muscle Strength Symmetry and Lower Limb Landing Mechanics Following ACL Reconstruction.

ここでは、前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい:ACL, Anterior Cruciate Ligament)という膝の中の靱帯を再建する手術のあと、スポーツなどに復帰してよいかどうかを判断するときの「筋力のバランス」の考え方についてお話しします。
リハビリや整形外科の外来でよく出てくる内容ですが、専門用語はできるだけかみくだいて説明していきます。

目次

研究の背景・目的

【背景】ACL(前十字靱帯)再建手術のあとのリハビリでは、手術した側の脚の筋力が、反対側の脚の85〜90%以上まで回復しているかどうかを「LSI(Limb Symmetry Index, 四肢対称性指数)」という指標でよく確認します。
LSIは「手術した側の筋力 ÷ 反対側の筋力 × 100(%)」で計算し、左右の筋力バランスを見るための数字です。このLSIが復帰の目安として広く使われています。
一方で、筋力テストやホップテスト(片脚でジャンプして着地するなどの機能テスト)で基準を満たしていても、実際のジャンプの着地動作を詳しく見ると、左右で動き方に差が残っている人が多いと報告されています。
この研究では、「筋力のLSIが基準を満たしていれば、本当に安全に復帰してよいと言えるのか」「筋力の左右差と、着地動作の左右差はどのくらい関係しているのか」を調べることを目的としています。

調査の方法(対象など)

【方法】ハムストリング腱(太ももの裏側の筋肉の腱)を使ってACL再建手術を受けた患者さん40名(手術後およそ9.7±3.4か月の時点)と、膝に問題のない健常者20名を比較しました。
「等速性筋力検査(Isokinetic strength test, 一定の速度で膝を曲げ伸ばしして筋力を測る検査)」という機械を使い、膝を1秒間に60度の速さ(60°/s)で動かしながら、膝を伸ばす筋力(膝伸展筋力)と、膝を曲げる筋力(膝屈曲筋力)のLSIを計算しました。
そのうえで、LSIが85%以上の人を「ACLR-High symmetry群(筋力の左右差が小さい群)」、85%未満の人を「ACLR-Low symmetry群(筋力の左右差が大きい群)」として分けて比較しました。

研究の結果

【結果】筋力のLSIが高い群(ACLR-High symmetry群)でも低い群(ACLR-Low symmetry群)でも、手術した側の脚でジャンプ着地したときの「ピーク膝伸展モーメント(Peak knee extension moment, 膝を伸ばす方向にどれだけ力がかかっているかを示す力学的な指標)」と、「垂直床反力(PVGRF, Peak Vertical Ground Reaction Force, 着地の瞬間に地面から体に返ってくる縦方向の力の大きさ)」は、健常者の優位脚(ふだんよく使う側の脚)と比べて有意に低い値でした。
また、ACLR-Low symmetry群(筋力の左右差が大きい群)では、膝伸展モーメントと「膝外反モーメント(Knee valgus moment, 膝が内側に倒れる方向にかかる力の指標)」の左右差が大きく、左右でバランスの悪い着地の仕方(非対称な着地戦略)をとっていることが示されました。
さらに、筋力のLSIと、着地動作における力学的な左右差(膝伸展モーメントや床反力など)のあいだには、統計的に有意な相関関係はみられませんでした。

結論:今回の研究でわかったこと

ACL再建手術のあと、膝の筋力のLSIが85%以上に回復していても、ジャンプの着地動作を詳しくみると、膝伸展モーメントや床反力が健常者より低く、力のかけ方に左右差が残っている傾向があると考えられます。
そのため、筋力の左右差(筋力シンメトリー)だけを基準にして、スポーツ復帰の可否を判断するのは十分とは言いきれません。
復帰の判断には、着地動作の解析なども含めた、多方面からの評価が必要だと考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

【臨床のヒント】実際の診察やリハビリの場面では、ACL再建後のスポーツ復帰を、「筋力のLSI」と「ホップテスト」の結果だけで決めてしまうのは注意が必要だと考えられます。
手術した側の脚で、無意識のうちに力を抜いてしまうような「患側回避戦略(手術した側をかばう動き)」があると、膝伸展モーメントや床反力が低くなりやすく、そのまま見過ごされる可能性があります。
こうした点を見逃さないために、3D動作解析(3D motion analysis, 体の動きを立体的に計測する検査)や、動画を使ったフォームの評価などを組み合わせて、多面的にチェックしていくことが大切だと考えられます。


参考文献


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医
  • 日本整形外科学会認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

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