慢性非特異的腰痛にMulligan SNAGsは有効か?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:慢性非特異的腰痛にMulligan SNAGsは有効か?
  • 英語タイトル:Effects of Mulligan sustained natural apophyseal glide mobilizations on pain, mobility, and lumbar-related disability in chronic non-specific low back pain: A systematic review and meta-analysis.

このテーマは、リハビリテーションや整形外科の外来で、よく話題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の診察室でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

「慢性非特異的腰痛」とは、3か月以上続く腰痛で、骨折やがん、感染症などのはっきりした原因が見つからないタイプの腰痛のことです。世界的にみても、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living、食事・着替え・歩行などの基本的な生活動作)に支障をきたす大きな原因のひとつとされています。
理学療法士(Physical Therapist:運動療法や手技でリハビリを行う専門職)のあいだでは、「Mulligan SNAGs(マリガン・サステインド・ナチュラル・アポフィジアル・グライド)」という手技療法がよく使われています。これは、背骨の関節に対して、患者さん自身の動きと合わせて、理学療法士がやさしく持続的な滑り(グライド)を加える方法です。
ただし、このMulligan SNAGsについて行われた「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:治療法の効果を公平に比べるために、患者さんを無作為にグループ分けして比較する研究)」の結果がそろっておらず、本当にどの程度、痛みや動きにくさに効いているのかがはっきりしていませんでした。そこで、その効果をより詳しく確かめることが、この研究の目的でした。

調査の方法(対象など)

この研究では、成人の「慢性非特異的腰痛」の患者さんを対象にしたランダム化比較試験だけを集めて調べています。
複数の研究をまとめて評価する方法を「系統的レビュー(Systematic Review:決まった手順で文献を集めて、質を評価する方法)」といい、その結果を統計的にまとめて数字として示す方法を「メタ解析(Meta-analysis)」といいます。
ここでは、Mulligan SNAGsを行ったグループと、「シャム治療(Sham Treatment:本物の治療のように見せているが、実際には効果が出ないように工夫された疑似治療)」、「標準的理学療法(Standard Physiotherapy:一般的に行われている運動療法や物理療法など)」、「他の徒手療法(Manual Therapy:手を使った治療全般)」などと比べています。
主に、治療を始めてから短期間から中期間(短期〜中期)のあいだに、痛みや日常生活のしづらさ、腰の動きやすさがどう変わったかを評価した研究を対象としています。

研究の結果

メタ解析の結果では、痛みについては「標準化平均差(Standardized Mean Difference:研究ごとの測定方法の違いをそろえて比較するための統計指標)」でみると、中くらいからやや大きめの痛みの軽減がみられました。
また、日常生活や動作のしづらさ(機能障害)についても、中くらいの改善がみられています。
腰の動きでは、「腰椎伸展可動域(腰を後ろに反らす動きの範囲)」は統計的に意味のある増加がみられましたが、「屈曲可動域(腰を前に曲げる動きの範囲)」については、はっきりした改善は確認できませんでした。
全体として、この結果をどれくらい自信をもって言えるかを示す「エビデンスの確実性」は、中くらいから低めのレベルにとどまっており、ある程度の効果は示されているものの、まだ不確かな部分も残っていると評価されています。

結論:今回の研究でわかったこと

この研究からは、Mulligan SNAGsが、慢性非特異的腰痛の痛みや日常生活のしづらさ、そして腰を後ろに反らす動き(腰椎伸展可動域)を、中くらいの程度で改善してくれる可能性が高いと考えられます。
一方で、その根拠となる研究の質や結果のそろい方には限界があり、エビデンスの確実性は高いとは言えません。
そのため、Mulligan SNAGsを「これだけで治す主役の治療」というよりは、他の理学療法(運動療法や姿勢指導など)と組み合わせて使う「補助的な手段」として位置づけるのが、現時点では妥当と考えられます。

実際の診察ではどう考えるか

実際の診察やリハビリの場面では、Mulligan SNAGsは、慢性非特異的腰痛の痛みや日常生活のしづらさ、特に腰を後ろに反らす動きの改善に、ある程度の効果が期待できる手技と考えられます。
ただし、研究ごとに結果にばらつき(異質性)があることや、長い期間でみた効果(長期成績)についての情報がまだ十分ではないことも踏まえる必要があります。
そのため、Mulligan SNAGsだけに頼るのではなく、エクササイズ(筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法)や、腰痛に関する正しい知識をお伝えする教育的な関わりなどと組み合わせて、全体としてバランスのとれた治療の一つの要素として、慎重に取り入れていくのが現実的と考えられます。


参考文献

  • Effects of Mulligan sustained natural apophyseal glide mobilizations on pain, mobility, and lumbar-related disability in chronic non-specific low back pain: A systematic review and meta-analysis.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42363558/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

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