高齢大腿骨近位部骨折患者で退院後の高エネ高たんぱく経口栄養剤は身体機能を改善するか?

この記事の要点

  • 日本語タイトル:高齢大腿骨近位部骨折患者で退院後の高エネ高たんぱく経口栄養剤は身体機能を改善するか?
  • 英語タイトル:Effect of oral nutritional supplements on physical functional performance in older patients at nutritional risk discharged with a rehabilitation plan: A randomised controlled trial.

このテーマは、股関節のあたりの骨折(大腿骨近位部骨折)をした高齢の方のリハビリや整形外科の診療で、よく問題になる内容です。
できるだけ専門用語をかみくだいて、普段の外来でお話しするような形で説明していきます。

目次

研究の背景・目的

大腿骨近位部骨折(太ももの付け根に近い部分の骨折)をした高齢の方では、
・栄養リスク(十分な栄養がとれていない、またはその心配がある状態)
・サルコペニア(Sarcopenia:加齢や病気などで筋肉の量や筋力が低下した状態)
があると、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living、食事・トイレ・着替えなどふだんの生活動作)が落ちたり、再び転んでしまう原因になると考えられています。
退院したあとにリハビリを続けながら、経口栄養補助食品(口から飲む栄養ドリンクのようなもの)を追加すると、身体機能がどのくらい良くなるのかについては、これまでの研究の数が多くなく、はっきりした根拠(エビデンス)が限られていました。
そこで、この研究では、退院後に高エネルギー・高たんぱくの経口栄養補助食品を追加することで、身体機能がどの程度改善するかを調べることを目的としました。

調査の方法(対象など)

この研究は、デンマークの1つの病院で行われたランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:治療法をくじ引きのように無作為に分けて比べる研究)です。
対象は、栄養リスクがある65歳以上の大腿骨骨折の患者さんです。
この方たちを無作為に2つのグループに分け、
・介入群:退院後12週間、高エネルギー・高たんぱくの経口栄養補助食品を1日2缶飲んでもらう
・対照群:特別な栄養補助はせず、通常どおりのケアのみ
という形で比べました。

研究の結果

主要な評価項目は「30秒椅子立ち上がりテスト」でした。これは、30秒間に椅子から何回立ち上がれるかを見るテストで、下半身の筋力やバランス、日常生活の動きやすさの目安になります。
このテストの結果は、介入群・対照群のどちらも退院後に改善していましたが、ITT解析(Intention To Treat:最初に割り付けられたグループのまま、途中でやめた人も含めて解析する方法)では、2つのグループの間に明らかな差はみられませんでした。
一方で、介入群では、たんぱく質の摂取量が有意に増えており、1日のエネルギー量とたんぱく質の摂取量は、対照群よりも高い値になっていました。
しかし、筋肉量や握力、ADL(日常生活動作)、QOL(Quality of Life:生活の質)といった、ほかの評価項目(二次アウトカム)では、2つのグループの間に有意な差はみられませんでした。
また、決められたとおりにしっかり飲み続けられた方(プロトコール遵守例)だけを対象に解析すると、椅子立ち上がりテストの改善は、介入群のほうが有意に大きいという結果でした。

結論:今回の研究でわかったこと

退院後12週間、高エネルギー・高たんぱくの経口栄養補助食品を飲んでもらうと、たんぱく質の摂取量は増えることがわかりました。
ただし、ITT解析(途中でやめた人も含めた、より現実に近い解析)では、30秒椅子立ち上がりテストの改善に、2つのグループの間で有意な差はみられませんでした。
一方で、決められたとおりにきちんと飲み続けられた方だけをみると、身体機能の改善が有意に大きかったため、経口栄養補助食品を続けて飲めるように支えることの大切さが示唆される結果でした。

実際の診察ではどう考えるか

ONS(Oral Nutritional Supplement:経口栄養補助食品)は、単に「飲み物を処方する」だけではなく、
・栄養リスクがあるかどうかをきちんと評価すること
・飲み続けられるようにサポートすること
などを含めた、全体としての介入として考える必要があると思われます。
また、リハビリテーション(リハビリ)と併せて使うことが前提であり、今回のITT解析の結果からは、「これだけで劇的に身体機能が良くなる」といった過度な期待はしないようにすることが大切と考えられます。


参考文献

  • Effect of oral nutritional supplements on physical functional performance in older patients at nutritional risk discharged with a rehabilitation plan: A randomised controlled trial.

    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42383884/


※この記事は、医学論文の内容を一般向けに解説したものです。診断や治療の最終判断は、必ず主治医とご相談ください。

この記事の執筆者プロフィール


Yoリハビリ整形外科かわな
院長 佐藤洋一

Yoichi Sato M.D.

医師・AIエンジニア


専門医・認定医・資格

  • 日本整形外科学会認定 専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定 専門医

  • 日本骨粗鬆症学会 認定医
  • 日本整形外科学会 認定リウマチ医
  • 身体障害者手帳指定医(肢体不自由)
  • 難病指定医(協力難病指定医)
  • 義肢装具等適合判定医

所属学会

  • 日本整形外科学会
  • 日本リハビリテーション医学会
  • 日本義肢装具学会
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本整形外傷学会

修了

  • 日本骨折治療学会研修会 Basic, Advance
  • AO Trauma Course Basic, Advance, Pelvic & Acetabular
  • 義肢装具等判定医師研修会
  • 生活期のリハビリ医療に関わる医師の研修会
  • ボトックス講習・実技セミナー(上肢痙縮・下肢痙縮)

受賞歴

  • 日本リハビリテーション医学会 Reviewer Award
  • 日本骨粗鬆症学会 研究奨励賞
  • 日本骨粗鬆症学会 優秀演題賞
  • 日本骨折治療学会 優秀論文賞
  • 中部整形外科災害外科学会 学会奨励賞
  • 日本腰痛学会 優秀論文賞
  • 東海骨・関節疾患研究会 ベストレポート賞(2度)

趣味

  • キックボクシング(アマ2戦2勝1TKO)
  • コーディング(Python, Java, html, CSS)
  • 水泳、テニス、ヨット
  • アウトドア、旅行

Yoリハビリ整形外科かわな

名古屋市昭和区|八事西エリアのリハビリ整形外科

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